月曜9時の恋人が行く 「そばと酒 湖月」

2015.07.30

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月曜9時の恋人が行く 「そばと酒 湖月」

2015.07.30

(今回、完全なノンフィクションではありません。
元々自分が書いた文章を誰かに読んでもらいたいということから始めたブログなので、あしからず!)


収録を終えると、
ディレクターが満面の笑みで駆け寄ってきた。

「今夜もよかったですよ!
ご常連との絡み!最高でした!
あの軽妙なやり取りは、他のタレントじゃできませんからね!」

そうだろう。そうだろう。
この仕事は酒場の流儀を知り尽くした
私だからこそできる仕事なのだ。

「深入りしすぎず、かといって浅すぎず、
間合いがまた絶妙なんですよね!」

ひとしきり褒めちぎって、
「お疲れ様でした」とディレクターは帰って行った。

まだ飲み足りないな。

「さあ、このあともう一軒行ってみましょうかね」
収録で行った店を出るときによく使うキメ台詞を口にしてみた。

さっきはついつい調子に乗って飲みすぎて
呂律が回らなかったが、今度は上手く言えた。
少し酒が抜けてきたからだろうか。

夜の繁華街を歩く。

普段は東京で生活しているが、
今晩は生まれ故郷の高知での収録だった。
高知の街も久々だ。

「あれ、テレビに出てる人じゃない?」

酔っているのか、頬を赤らめた
中年のおばさん二人がこちらを見ている。
やれやれ、有名人も楽じゃない。

「あれ絶対そうよ……!
トレードマークのメガネとハンチング帽!」

いつの頃からか、
世間は私のことをこう呼ぶようになった。

「酒場ポエット」と。

湖月1

雑居ビルの2階にある『そばと酒 湖月』

収録でも一度来て以来、
すっかり気に入ってしまい、
高知に帰ってくるたびに顔を出している。

「あら、満席ですか?」
「奥の小上がりでも大丈夫ですかね?」
「ええ、大丈夫ですよ」

<カウンターは満席か。
相変わらず繁盛してるな…>

座布団に腰をおろす。
店の奥さんが注文を訊きに来てくれる。

「お飲み物は?」
おしぼりで手を拭きながらメニューを見る。
「えーと、生をいただきましょうかね」

湖月3

<蕎麦はなににしようか……>
メニューを眺めていると、生ビールがきた。

湖月6

グイッと飲む。
<旨い!やはり夏はビールだ!>

湖月4

お通しはオクラとミョウガを
ポン酢で和えた感じのものと、
ロメインレタスとナスとひき肉をあんかけにした感じのもの。

湖月5

出すときにちゃんと説明してくれたが、忘れてしまった…。
収録中にもよくしてしまうミスだ。

酒が入ると、どうしても
人の話を聞くということができなくなってしまう。

それでも唯一、
ロメインレタスだけは覚えていた辺り、
さすがは私。さすがは酒場ポエットだ。

蕎麦は2杯注文した。

食べられないと仕事にならない酒場ポエット。
普段からこれくらい食べて胃を鍛えておくのは、
ある意味当然といえる。

湖月8

まずは『天おろし』

湖月9

一気に食べ、次は『辛いねぎそば』
という亜種的な1杯。

湖月11

蕎麦の上に白髪ネギが、こんもりと盛られている。

「蕎麦の色合いがなんとも言えず…いいですねぇ…」
収録中のような言葉を口にしてしまった。

「なんとも言えない」を多様しすぎだと
自分でも気が付いていながら、
便利な言葉なので、つい使ってしまう。

湖月12

蕎麦をつゆに浸ける。

湖月10

「このつけつゆの赤黒さがまた……
なんとも言えず、辛そうな雰囲気ですよ…!」

湖月15

一口食べた瞬間、心を打たれた。

「あぁっ!これはすごいですねぇ!
最初に甘味がフワッと来るんですけど、
そのあとにラー油でしょうかね?
辛さが来て、最後に蕎麦の香りと旨味が残ります!」

収録中でもなかなか言えないくらい
上手い感想を言えた。

まるで『生姜農家の野望Online』
というブログを書いている、
竜一とかいう農家みたいに絶妙な感想だ。

などと浮かれていると手が滑った。
つけつゆが入った器がテーブルの上に落ちた。

テーブルの上に、つけつゆが大量に撒けた。

器がテーブルにぶつかる音で
気が付いた店の奥さんが慌てて拭きに来てくれる。

「すいません!すいません!」
やってしまった。

自己嫌悪に陥っていると、
すぐさま奥さんは新しいつけつゆを作って持ってきてくれた。

<なんと…お優しい……!>
即行でファンになってしまった。
ファンクラブがあったら入会したいくらいだ。

湖月14

食べ終えてまったりしていると、
今度は蕎麦湯を持ってきてくれた。
<こんな粗相をした私に蕎麦湯まで……!>

湖月13

蕎麦湯に、つけつゆを薄めて飲む。

「あっ!これは美味しい……!
美味しい以外の言葉が見つかりません…」

地球上に存在するすべての出汁の旨味が
凝縮されているんじゃないかというくらい、本当に美味しい。
収録の疲れも一気に吹き飛んだ。

一滴残らず飲み干して、店を出る。
戸を閉めた瞬間、思わず言ってしまう。

「いやぁ、湖月さん。やっぱりいいですねぇ…」
もはや職業病だ。

「さあ、このあともう一軒行ってみましょうかね」
と言いたいところだが、今夜はもう帰って寝よう。
いい夢が見られそうな気がする。

繁華街のネオンは
まだ煌々と灯りのしずくを垂らしている。

ここで今宵を締めくくろう。
私は脳内でさらさらと一句詠んだ。

"ねぎ蕎麦が とってもとっても うまかった"

大胆で繊細な味に、心はときめいた……。

トレードマークのハンチング帽を
目深に被り直し、タクシー乗り場を目指して歩く。

蕎麦が、酒が、身体の中で歌っている。
なんとも言えない音色を奏でて歌っている。

◆ そばと酒 湖月
(高知県高知市追手筋1-8-10 2F)
営業時間/11:30~14:00、18:00~2:00
定休日/
土・日・祝は昼営業なし
日・月・祝は夜営業なし
駐車場/無

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