ツンデレ婆さん(オバ=ア視点) | 生姜農家の野望Online

ツンデレ婆さん(オバ=ア視点)

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夕食どきに電話が鳴った。
「はい、もすもす」受話器に耳を当てると、聞き慣れた声がした。
「あ、もしもし」

「ああ」声の主はすぐにわかった。
「竜一やけんど。オバ=アかよ」

思った通り、孫の竜一だった。

「ああ」
「明日、ひ孫を……思いゆけんど……かえ」
「え?」

歳のせいか、最近耳が遠い。

「明日、ひ孫を……かと思いゆけんど」

竜一は明らかに面倒くさそうな口調で、同じ文言を復唱してくれたようだが、まだ聞き取れない。
みたび復唱するのは諦めた様子で訊いてきた。

「おるかえ?」
「なに?どいた?」
つい強い口調になってしまう。それもこれも耳が聴こえないのがいけないのだ。

もっとも私よりもお爺さんのほうが耳が遠い。以前、あまりにも耳が遠いお爺さんに竜一が、補聴器を買え、といったところ、「拡声器を買え」といい返したのには笑った。

何度も訊き返してしまったためか、閉口した竜一に再度訊く。
「どいた?」聴こえないのだから仕方がない。

「ひ孫を見せに行こか、という話をしゆがやけんど…」
今度は聴こえた。先月産まれたばかりの、ひ孫がウチに来るという。ひ孫には産婦人科で一度会って以来だ。

「来たらえいわ」なんだか照れくさい。

「昼過ぎばぁに行くけんど、おるかよ?」
「おるおらんにかかわらず、来たらえいわ」
思わず、ひねた返答をしてしまった。

「おるおらん………おらん………けんど」
ダメだ。また聴こえない。

「なにっ!どいた?」つい強い口調で訊き返してしまう。

「ひ孫を見せに行たち、家に誰っちゃぁおらんかったら、意味ないろうがえ」
それはそうだ。いわれてみると、たしかにそうだ。

「ほうかよ」そう返事すると、竜一も真似した。
「ほうよ」

竜一はときどき、この辺りの年寄りが使う口調をわざと真似する。年寄りと話すときだけ、語尾に「じゃ」を付けて話したりする。

そんな孫が明日はひ孫と一緒に嫁も連れて来るだろうから、ケーキかなにか買って来なければ。お茶も淹れないと。お茶は私が栽培したハブ茶を淹れてあげよう。

でもそう考えると、なかなか大変だ。ケーキを皿に載せるのも、お茶を淹れるのも全部一人でやらなければならない。お爺さんは昔からそんなことは一切できない人だから。一時期「おもてなし」なんて言葉が流行ったけれど、おもてなしするのも楽ではない。なにせ気を使ってしまう。

「まあ、おらんかったち、かまなぁ、来たらえいわ」プレッシャーから、つい、またひねた言い方をしてしまった。

「………。いや……………………」

竜一がなにかいったが、もはやそれどころではない。ひ孫と一緒に孫嫁も来るのだ。「お・も・て・な・し」をしなければ。それに天気も気になる。産まれたばかりのひ孫が雨に打たれて風邪でもひいたら取り返しがつかない。竜一は明日の天気予報を見ていっているのだろうか。

「明日は昼から雨やとねぇ」そういってみたが竜一は、論点はそこではない、というふうな口調で答えた。

「ま…まぁ…。いや…ほんで……」といって語気を強める。「ひ孫を見せに行くき、明日は家におるか、という話ながやけんど…」

ひ孫は見たいが、「お・も・て・な・し」が大変だ。私のハブ茶を飲んでもらいたいが「お・も・て・な・し」が若いときから苦手なのだ。人に気を使うより、庭で花でもいじっていたほうがずっといい。

けれども、ひ孫を見せに来るという孫の申し出を、面倒だからと断るのは普通ありえないだろう。そんなことは私もわかっている。しかしそれにしても「お・も・て・な・し」が…。誰か代わりに「お・も・て・な・し」をしてもらいたい。

じゃあ断るの?いや、ダメ。だってひ孫が。だってひ孫が…。

仕方がない。頑張ろう。明日だけ頑張ろう。

「おるろう、おるろう、来たらえいわ」
「おるがやね?」
「へえ、へえ」

「ほいたら、一時から二時までのあいだばぁに行くけんど、かまんかえ?」

やはり照れくさい。

「おるやら、おらんやら、わからんけんど、まあ来たらえいわ」
「いや……だから……おらんかったら困る、いいゆうろう?」

さっきから何度同じやり取りをしているのだろう。でも素直になれない。素直になれない気がした七十四の夜だ。

「あたしゃ別にかまんが」
「ひ孫は見いでもえいかよ」

いやいやいや、そういう意味でいっているのではない。気持ちを上手く言葉で表現することができないのだ。

「ほいたら、もう行くのやめるわ」

えええええ……!

「ほいたらね」
ほいたらねって……!ちょっと待って!

「なんちゃあ、来たらえいわ」焦った。焦った気がした七十四の夜だった。それにもう私は覚悟を決めた。オバア代表として立派に「お・も・て・な・し」する覚悟を。

「ええ?おるやらおらんやら、わからんようなこというき、行くのやめようかと思いよったが…」

「来たらえいわよ、来たら」
「ほいたら、明日はおるがやね?昼の一時から二時ばぁに行くけんど」

一時に来るって?そうするとなかなか忙しい。昼ごはんを食べたらすぐ食器を洗って片付けておかなくては。できればもっと遅い時間のほうが…。

でも遅くなると雨が降るかもしれない。たぶん竜一もそれをわかっていてこの時間をいってきているのだ。とはいえ大変だ。昼ごはんから息つく間もなく「お・も・て・な・し」とは。

「どうやらわからんけんど」またしても思わず、ひねた答えをしてしまった。

「おるがやね?」
竜一は完全に見透かしている。
ええい、もういい。昼ごはんから通しで家事炊事だ。ああ、それに掃除もしておかなくては。まままままあ、する。掃除もする!

「おるろう、おるろう」
「ほいたら明日連れて行くきね」
「はいはい」

「おじいさぁん、明日の昼に竜一がひ孫を連れて来ると」後ろを振り向き、そう言いながら受話器を置く。

「ほうかよ。そらぁ賑やかになるねゃ」とお爺さんは目を細めた。

ボクをおしていってね!(笑)
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竜一を監視(Twitterフォローなど)

『ツンデレ婆さん(オバ=ア視点)』へのコメント

  1. 名前:ムシマル 投稿日:2015/12/03(木) 21:07:28 ID:589fc6ab0 返信

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    まさかツンデレ記に、B面があったとは!
    こういうの、良い。
    ずっと探偵目線だったのにいきなり犯人視点が入ってくるミステリーのよう(たとえが悪い)。

    とっても面白かったです。
    最近の文章、キレッキレです!

  2. 名前:竜一 投稿日:2015/12/06(日) 18:23:51 ID:589fc6ab0 返信

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    ムシマルさんならおわかりいただけるかと思いますが、毎日ブログを書いていると飽きてくるんですよね。自分が(笑)。

    それで普段読んでいるミステリー小説みたいにブログを書けないかなと思い、ちょっとそれっぽく書いてみました。

    普段、まあいうたらノンフィクションで書いている中で、突然フィクションを入れるのはどうかなという懸念もありましたが、文豪ムシマル氏に誉めてもらえて嬉しいです(^ム^)