ここ最近、そのお得さから、
私の麺生活に大きな支障を与えている、
地元のタウン情報誌、「ほっとこうち」プロデュース。
『500円・ランチパスポート』
それには、うどん屋さん、ラーメン屋さん、ソバ屋さん。
多くの麺屋さんも参加されている。
<せめて・・・麺屋さんだけでも・・・!
参加店全制覇を成し遂げてぇ・・・!
あわよくば・・・パスタさえも狙ってやるぜ・・・!>
だが、この時。
竜一が欲するものは、全く違った。
<なんだか・・・今日は・・・肉が食べないなぁ・・・!
麺よりも・・・肉・・・!
こんな気持ちになるの・・・いつ以来か・・・思い出せねぇ・・・!>
肉を求めて、ランチパスをパラパラパラとめくっていた竜一。
脳に電流が走る。
<ああっ・・・!?
なんだこれ・・・!トンカツが500円・・・!?
トンカツが・・・!500円っ・・・!?>
また彼は冗談を言っているのだと思った。
きっと彼は、また私の鼻を人差し指で突きながら、
「はぁん!騙されてやんの・・・!」とか言うのだろうと思った。
が・・・!
何度確認しても、どう見ても、どう考えても、
トンカツを中心とした定食が500円で食べられると書いてある。
私は、彼の一挙手一投足が信じられなかった。
だけど、それでも、
彼が私のすべてなのだと自分に言い聞かせて、
半ば無理矢理、信じた。
それから車でソコソコの時間をかけて、来た。
『イオン高知』
イオン高知に逢うのは久し振りだった。
たぶん、半年ぐらいは逢っていなかったと思うのだけれど、
イオン高知は、前に触れ合った夜と変わらぬ笑顔で待ってくれていた。
運良く、地上に面した駐車場に車を停められた。
けれど、私は少し戸惑っていた。
「入口・・・あり過ぎ・・・!
どの入口が当たりだよっ・・・!」
山勘で入ろうとした自動ドアは、タダのガラス窓だった。
「ちっ・・・!
ハズレか・・・!」
右往左往の末に、なんとか正規の自動ドアを見つけられた。
あとは、もうトンカツの香りに誘われるがままだった。
『かつ処 季の屋』
平日とはいえ、ちょうど12時台のお昼時だったから、
スグに店内に入るというわけにもいかず、待ち人数名。
入口にあった用紙に名前を書いて、
店舗に向かって置いてあるイスに座って、暫し待つ。
隣の回転寿司店も混んでいる様で、
店舗の前で70は回っていると思われる老夫婦が、
談笑しながらイスに座って、店内の空席を待っている。
じーちゃん、ばーちゃん。
二人の素敵な笑顔。
幸せの形を見た気がした。
『季の屋』から出てくる客は、
スーツを着た男女が多く、皆、片手にランチパスを提げている。
<ほっとこうち・・・すげぇ・・・!
ほぼ全員・・・ランチパス持ってるよ・・・!>
やがて、女性の店員さんに呼ばれて、入る。
かつ処・・・!
季の屋・・・!
季の屋と書いて・・・!
きのやと読む・・・!
季の屋・・・!
あっ・・・!
UDON・・・!
<ちょ・・・ちょ・・・おま・・・!
うどん・・・!うどんにする・・・!?>
ちょっと迷った。
だが、ランチパスの攻撃力。
竜一の浅はかな思考をも上回る。
500円のトンカツ・・・!
その右に並ぶことが出来る奴・・・!
そんな奴・・・いるかっ・・・!
イケメンの男性店員さんに注文する。
「ほほほ・・・ほっとこうちのやつで・・・!」
「はっ・・・!かしこまりました・・・!
キャベツ・・・味噌汁・・・ご飯・・・!
お替わり自由なので・・・お気軽にお申し付け下さい・・・!」
瞬間、竜一。
穏やかでは無くなる。
<なに・・・!?
今・・・!なんて言った・・・!
お替わり自由・・・!?>
<それも、よくあるキャベツのお替わり自由程度の騒ぎじゃない・・・!
味噌汁に・・・ご飯までお替わり自由・・・!?
あるのか・・・そんなこと・・・!そんなウマイ話があるのか・・・!>
<俺も遠慮を知らない人間では無い・・・!
むしろ他人よりも遠慮深いぐらいのはずだ・・・!
だけど・・・ご飯までお替わり自由だと言われたら・・・おい・・・!>
喰らい尽くしてやる・・・!
季の屋の炊飯釜・・・!
その底が見えるまで・・・!
先に出された、ゴマ。
これを擂ったのちに、ソースと合わせて待っていれば良いと言う。
<ははーん・・・!県外のうどん屋でたまにある・・・!
大根を卸しながら待っていろ・・・それと似たようなパターン・・・!
これはいわゆる・・・その・・・ゴマバージョン・・・!>
竜一は、真価を発揮した。
ゴマを上手に擂ること・・・!
それこそが・・・!
竜一が持って生まれた才能・・・!
真骨頂だったのである・・・!
<うわぁ・・・!
俺すごい・・・俺すごい・・・俺すごーい・・・!
結構いい感じに出来たぁ・・・!>
季の屋が、どう思ったのかは分からないけれど、
ゴマを上手に擂れた。
ただ、それだけのことが、私は嬉しかったんだ。
『ロースかつ膳(中)』
(1020円 → ランチパス提示で500円・平日の11時~15時まで・期間中4回利用可能)
みそカツラーメンや・・・!カツ丼の状態ではなく・・・。
ありのままの彼・・・トンカツのままの彼を見るのは久し振りだった・・・。
彼の鍛え上げられた身体に、息を呑む。
見てくれ・・・!
この肉厚・・・!
<横幅・・・2メーター以上・・・!
写真に撮ると小さく見えるが・・・!
実物大は・・・紛れも無く2メーター越えの沙汰・・・!>
もう、私は彼そのものになってしまいそうだった。
<俺は・・・!豚・・・!
豚だ・・・!豚なんだっ・・・!>
ブーッ・・・!
勢い良く食べ進め・・・!
制圧する・・・ご飯・・・!
圧倒的・・・!
完食っ・・・!
<勝機は逃さねぇ・・・!
早くもって来いよ・・・俺のご飯・・・!>
お替わりだっ・・・!
店員さんを呼ぶボタンを押す。
程なくして来る、女性の店員さん。
「はい・・・!」
「ごはぁあん・・・お替わり・・・!」
<あかーん・・・!
完食の興奮・・・!感極まって・・・!
はぁあんとか・・・セクシーボイス出してもうた・・・!>
ひとり、赤面。
それから数分ののち。
彼は、初めて目と目が合った瞬間と同じ姿で現れた。
何度でも蘇るぜ・・・!
再び・・・!
茶碗に盛られた・・・ご飯・・・!
<たとえ500円でも・・・遠慮なんかしねぇ・・・!
ご飯は一食一合以上・・・!
それは農民の譲れぬ常識・・・!>
いっそ、味噌汁もお替わりして、
彼を困らせてやろうかと思った。
でも・・・出来なかった・・・!
さすがにそれは恥ずかしかった・・・!
味噌汁をお替わりするのが恥ずかしいのだから、
もちろん、フードコートの中心でキラッ☆ってやるのも恥ずかしかった。
しかし、誰か・・・というより大勢に見られている興奮。
それは、恥ずかしさをも上回る。
ああっ・・・!恥ずかしいっ・・・!
でも・・・恥ずかしいのが・・・!イイっ・・・!
キラッ☆
◆ かつ処 季の屋(高知市秦南町・イオンモール高知内)
営業時間/11時~22時30分
定休日/無
駐車場/大量に有
『かつ処季の屋の場所はココっ・・・!』