うどんに嵌り始めたのは、十年近く前。
ハタチぐらいの頃だった。
その頃の私に、手打ちうどんの魅力を教えてくれた店。
それが、香美市土佐山田町にある『さかえ』だった。
このところ、『ほっとこうち・ランチパスポート』を巡る連戦が続いていた竜一。
<たまには・・・ランチパス参加店以外へ出向き・・・!
アルデンテの凌ぎを削る・・・!
煮えたぎる様な攻防を繰り広げてぇ・・・!>
そういう妄想の果ての答え。
やはり、『アルデンテ』という言葉とイコールで結ばれる店は、
ここが私の中での筆頭である。
『本手打ち讃岐うどん さかえ』
高知県中東部、随一の人気店である、さかえ。
いつものように開店勝負を仕掛けて、
でも、竜一クオリティで少し遅れて、11時15分。
店の正面。
南側の信号から、進入を図る。
目の前の信号が示す色は、赤。
7台が停められる駐車場には、
上手い具合に、1台分の空きがあるのが見える。
<俺が信号を待っている間に・・・残りの1台分・・・!
埋まらなきゃいいけどなぁ・・・!>
熾烈を極める、さかえの駐車場争い。
それは、並大抵の運では勝ち取れないのである。
<来てくれ・・・!
強運を超える・・・極限の運気・・・!>
天下無双の豪運っ・・・!
この日、すべての流れは竜一に味方する。
程なくして、青に変わる信号。
<残り三方からは・・・なんにも来ない・・・!
いけるっ・・・!!
このチャンス・・・逃すわけにはいかねぇ・・・!>
アクセルをグッと踏み込んで、
華麗なるスタートダッシュを決めたのち、
1台分だけポッカリと空いたホワイトライン内に滑り込む。
<せふ・・・せふ・・・せふ・・・セーフ・・・!
やったぁ・・・!千載一遇・・・!
極小の確率に・・・滑り込んだっ・・・!>
入店・・・!
薄暗い店内は、
いつものように、中央に配されたテーブルを中心に賑わっていた。
私も中央のテーブル席に腰を掛け、注文をしたのち、
片隅の上方に置かれたテレビから流れる興味の無い番組を、
ただただボケーッと眺めていた。
やがて、運ばれてきた、
左隣に座っていたおじさんが注文した、『かけ』
私は、尚もテレビをボケーッと眺めていた。
その時・・・突然・・・!
店内に響き渡るほどの大音量で・・・!
発声するおじさん・・・!
「いただきますっ・・・!!!!」
一瞬・・・浮き上がった・・・!
竜一の・・・心臓・・・!
<ギヤァア・・・!
なに・・・!なんなのよ・・・おっちゃん・・・!
ビックリしたよ・・・!>
おじさんは、麺を一口、口に入れて、
またも大声で、歓喜の言葉を述べた。
「うん・・・!
うまいっ・・・!」
<よ・・・良かったね・・・おっちゃん・・・!>
こういうケースは初めてだったので、
もしかして、このおじさんは芸能人か何かで、
グルメ番組の撮影中なのかなと思い、
テレビカメラを探したけれど、見付からなかった。
そうこうしていると、私が注文したブツも届いた。
『ぶっかけ(大)』
「はーい・・・♪ぶっかけの大でーす・・・♪」
運んできた女性の店員さんが、そう発した瞬間。
隣のおじさん。
竜一を凝視・・・!
しかし、竜一。
反射的に視線を逸らす。
<目だけは絶対に合わせねぇ・・・!
目なんか合わせたら・・・常識的に考えて・・・!
恋が始まるか・・・石になるかのどっちかだろうがっ・・・!>
どうやら、おじさんは、
『大』の量の多さに驚いているようで、
目をまん丸にして、私のうどんを覗き込んでいた。
そんなおじさんを尻目に、
薬味を乗せて、ぶっかける。
どばぁーっ・・・!
うわぁぁあああ・・・スッキリ・・・!
脳天突き抜ける・・・ぶっかけ出汁・・・!
切り立ったエッジ・・・!
弾き返す・・・力強い食感・・・!
これこそが・・・!
男の中の男麺っ・・・!
圧倒的っ・・・!
アルデンテ・・・!
『かけうどん』
私が食べている途中で、
隣のおじさんは席を立ち、
出入り口の側のレジで会計を済ませていた。
「ごちそうさんっ・・・!」
そう叫んで、おじさんは、
険しい表情で店を後にした。
平穏が戻った店内。
テレビの音に、うどんをすする音が混じりあって聞こえてくる。
皆、心の中で、
「うん・・・!うまいっ・・・!」
と言っているに違いない。
◆ 本手打ち讃岐うどん さかえ
営業時間/11時~麺切れまで(閉まる目安は14時ぐらい)
定休日/木曜日
営業形態/一般店
駐車場/7台(お昼時は大抵満車)
(かま玉380円、かけ330円、しょうゆ330円、ぶっかけ380円、かまあげ380円、
【トッピング】→ちくわ天100円、えび天150円、肉200円、生卵50円、大は100円増)
うどんメニューは上記5種類のみ。ですが、トッピングを組み合わせることでいろいろ出来ます。
麺量は並でもかなり多めなので、注意!
『本手打ち讃岐うどんさかえ』の場所はココ!
うどーん。