壁に貼られたメニューを見ながら悩んでいると、店のお姉さんに声をかけられた。
「お決まりですか?」
もちろん、決まっていない。
私はまだ悩んでいる。
いったい私は何を食べればいいのだろう。
私は、私が食べるものを決めることができない。
あぁっ・・・それにしても決められない・・・。
しかし悩み始めてから、もう随分と時間が経つ。
ここで決めておかないと、悩んでいるあいだに日が暮れるかもしれない。
そして、おそらくお姉さんは思うだろう。
オマエどんだけ悩むねん!と―――。
<ダメだ・・・>
私はメニューを見ながら思考をフル回転でめぐらせる。<決められない・・・全部食べたい・・・!>
側でお姉さんが待っている。
<何でもいい・・・もう何でもいいや・・・!>
私は目に留まったメニュー名を、テキトーに言った。
「ごごご・・・五目うどん!大盛で・・・!」
お姉さんは店の奥のほうへ歩いていき、厨房へ注文を伝えている。
それを見ながら、私は自分に言い聞かす。
<これでよかったんだ・・・!メニューを決めるのに自分の意思など関係ない!目に付いたものをテキトーに頼む・・・!それでこそ俺・・・!それこそが俺の真骨頂・・・!>
俺は・・・テキトーな人間だ・・・!
そうだろう・・・!俺はテキトーな人間だ・・・!
テキトーに五目うどん・・・!悪くないっ・・・!悪くないっ・・・!
静かな店内。
何人かの人がうどんをすする音が協奏曲のように響く。
私もそうだけれど、男性の1人客が多い。
心を無にして、無の境地で待つ。
しばらく無の境地で待っていると、お姉さんがやってきて、私の前に『五目うどん(大盛)』を置いた。
<初めまして・・・>
私は五目うどんに挨拶せざるを得ない。<お綺麗ですね・・・>
器の中央に、肉。
その周りをワカメやキツネ(揚げ)が囲んでいる。
五目うどんの具材としては、たぶん珍しい・・・玉子焼もいる。
<よくあるのは、ゆで卵だと思うけど・・・鄙屋は玉子焼なんだ・・・!>
私は少し嬉しくなる。<こういう各店の特徴の違い・・・個性の違いを見られるのが、うどん食べ歩きの醍醐味やわのぉー>
細めの麺。
そして、初めて尋ねたときも思ったのだけれど、その細さからくる見た目の印象と裏腹に、弾力はわりと強め。
食べていると、サラリーマン風のオジサンが1人で入ってきた。
「五目うどん」注文した。
そのあとすぐに、お婆さんが1人で入ってきた。
お婆さんも「五目うどん」を注文した。
<五目うどん、人気あるんだなー>
ふむふむ、と思いながら私は「五目うどん」を食べる。<テキトーに五目にしてよかった!ええ感じや!>
◆ 麺 鄙屋(ひなや)
(高知県高知市南はりまや町2丁目15−11)
営業時間/11時30分~麺切れまで
定休日/月曜日
駐車場/無(近くのファミマの裏に有料駐車場が有ります)
(肉ぶっかけ550円、葱うどん280円、大盛100増など)
『鄙屋(ひなや)』の場所はココ!