大粒の雨がフロントガラスに叩きつけている。
<どんな風になってるんだろ・・・>何だかドキドキする。
一般店の方式で営業していた『麦庵』が、トッピング取り放題の店、『バイキン具うどん・むぎ庵』にリニューアルオープンしてから、1ヵ月ほどが経っていた。
<結構お客さん入ってるなー>
駐車場に停めた車の中から店内の様子を窺う。
建物は改装前と同じだが、中のテーブルの配置などは明らかに違って見えた。
ドアを開けて、入口へ駆ける。店内に入る。
女性の店員さんが、店のシステムを説明してくれる。
「あぁ・・・あぁ・・・」
私はとにかく、あぁあぁとそれを聞いた。
一通り説明を終えた店員さんと目が合った。
わかりました、という意思を伝えるために、私は最後に強めに「あぁっ!」と発して大きく頷いた。
店員さんの説明によると、まず最初にトッピングを取る方式らしい。
<これ全部食べていいの・・・?>
目の前には揚げ物を中心に、たくさんのトッピングが並んでいる。
通常のセルフうどん店ならば、一つ取るごとに代金が加算されていく。だが『むぎ庵』は違う。
トッピング!食べ放題!
いくらトッピングを取って食べようと、代金は変わらないのである。
<ありがたいっ・・・!ありがたいっ・・・!天国っ・・・!圧倒的天国っ・・・!>
私は目を血走らせ、皿にトッピングを盛りまくった。
<おおっ・・・!これ以上入れると、トッピングが皿から落ちてしまいそうだ・・・!>
トッピングは何度でも取りにきて構わないと言われたが、それでも私は盛りまくった。
すぐさま絶景を見るために、一度に盛っておきたかった。
皿の上に築かれたトッピングの山は、今にも崩れてしまいそうだ。
<エビ天でガードしてるけど、エビ天自体が他からの圧力で滑り落ちそう・・・>
慎重に運んで、注文カウンターへ達す。
うどんを注文してください、と声をかけられる。
「小」ならば、トッピング込みで730円。
「大」は、835円。
<いつもだったら、大どころか特大で勝負するのがセオリー!
だがここでは・・・うどんを食ってる場合じゃない・・・!>
トッピングだろ・・・!
トッピングこそが"バイキン具"のメインだろっ・・・!
「"小"で・・・」
と私は可愛らしく言った。その声は全盛期の黒柳徹子のようだった。
さらに、うどんの種類を「かけ」「ぶっかけ」「ざる」から選べるという。
「ぶっかけで・・・!」と私は注文した。
温かいのにするか、冷たいのにするかと訊かれた。
「あったかいので・・・!」と私は答えた。少し肌寒かったからだ。
すぐさま、うどんを渡してもらって会計をする。
レジの横に温玉があるのが見えた。コッソリ取った。
「薬味はアチラでどうぞ!お肉とカレーもありますので!」
おつりを渡しながら、女性店員さんが手で示す。
示された方向へ歩くと、大きな鍋に茶色い物体がたくさん沈んでいた。肉だった。
<えぇぇぇぇ・・・お玉ですくっていいんですか・・・>
完全に怯んだ。
肉をすくうために用意されているのはお玉だ。しかも大きい。
<肉だけは、絶対に取りづらくしているだろうと想定してたのに・・・!>
すごい!すごいぞ!むぎ庵!<小細工しない!よく滑る箸で取らさせる、なんてことはしてこない!>
そのお玉で軽くすくうと、牛丼店のメガ盛りぐらいすくえた。
<これは・・・これは本当にいいのか、むぎ庵・・・>
私は微苦笑して、ますます怯んだ。<ありがたいを通り越して、恐縮してしまう・・・>
良心を試されているような、肉の駆け引き。
メガ盛り相当の肉が入ったお玉から鍋へ、少し肉を戻した。
<ダメだっ!俺にはできない!丸腰の相手を斬りつけるようなこと!俺には・・・!>
肉の高級感に勝てず、遠慮してしまう。<くそっ・・・!くそっ・・・!できないよーーー!>
(後編へ続く・・・!)
※ 一つの記事として更新していましたが、前後編にわけました。
続けて読みやすくするために、後編を先に更新しています。
https://syoga-udon.com/archives/35637
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