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憧れのタイの料理が食べられると聞いて来た『cafe chang(カフェ・チャン)』は、
『東印度公司(ヒガシインドコンス)』という、エスニック雑貨や服飾を扱う店に併設されていた。
<混んでなかったらいいんだけど・・・!>
常日頃、場末のうどん屋ばかりに行っているせいで、
こういう、いかにもオシャレな女性達が集いそうな"カフェ"に対する免疫がまったく無くて、
大抵の場合、"入りづらい"という感覚を覚えてしまうのだけれど、『チャン』は違った。
まるで我が家であるかのような自然体で、入店!
「チリン!チリン!」
扉に付けられた鈴が鳴る。
<あっ・・・あれ・・・!?
そういえばココ・・・!俺の家だっけ・・・?>
あまりにもスンナリと入れたことを我ながら不思議に思っていると、
民族衣装みたいなのに身を包んだお姉さんが、微笑みながら迎えてくれる。
<綺麗っ・・・!>
それは紛れも無く"綺麗なお姉さん"で、
心を奪われないように、視線を外した。
歩くと「コトコト」と優しい音が響く、木の床。
『白雪姫』に出てくる"小人の家"を思わせる、小さくて可愛らしい店内は、
台風並みの悪天候に加えて、ピーク時を避けた13時半過ぎの入店という、
二重の戦略を用いた甲斐あって、比較的空いていた。
<よしっ!よしっ!狙い通りっ・・・!
とうとう俺は、春の嵐さえも味方に付けたっ・・・!>
先客には、やはりオシャレな女性が多く、『農業界のうどん野郎・竜一』は、
「大丈夫か!俺は浮いてないか!?」なんて疑心暗鬼しながらも、
「大丈夫!大丈夫!とけこんでる!とけこんでる!」と自分を懸命に励ました。
手に取ったメニューには、
見慣れたカタカナの、見慣れない組み合わせが並ぶ。
<パッシーユって・・・何語だろ・・・!
って・・・あぁ・・・そりゃ十中八九、タイ語か・・・!
そりゃそうだよな・・・でもどんな料理なのやら皆目検討も付かない・・・>
釜玉、ぶっかけ、生醤油などの単語で埋め尽くされた和製の脳天を貫く、
カタカナ・タイ語の攻撃に、早くも思考が停止。
「ご注文よろしいですか?」
そんなお姉さんの問いかけに、
少し気取って、いたってフレンチに応える。
「うぃ・・・うぃ・・ちょっ・・・うぃ・・・!あとで・・・!」
まいど!
フランス人です。
だけど、お姉さん優しい。
「では、あとでお伺いしますね☆」
<はぅぅ・・・俺の不調をあえて受け流して・・・!
俺にだけ特別に、すべての客にするような普通の対応をしてくれるだなんて・・・!>
かなりウキウキしながら、もう一度メニューに目をやる。
すると、恋の魔法か、さっきは見えなかった文字が見える。
<おぉ・・・メニュー名の横にちゃんと説明書きがある・・・!
タイ焼そば・・・!パッキーマオ・・・激辛・・・!
"激辛"の度合いがどれほどの次元なのか少し心配だけれど、これにしてみようかな・・・>
(EP3へ続く・・・!)
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