『EP3を読む』
安芸市で生まれた作曲家・弘田龍太郎氏の歌碑をめぐる『歌碑めぐり』
その数は全10歌碑で、残る歌碑はあと4つ。
道路脇の水路や獣道を用意して襲い掛かる安芸市を相手に、果たして無事に回りきれるのだろうか・・・!
<あらあら・・・ドシャ降りになってきましたよぉー>
元々降ったり止んだりしていた雨が、6つ目の歌碑「春よ来い」を回った辺りから強くなる。
次に目指すは、3曲碑「お山のお猿に」
<どこから行きゃあいいんだよ・・・>
私は途方に暮れていた。<歌碑がある場所はわかってんだけど、そこに行く道がないっ・・・!>
道が無い。
<もしかして車じゃ行けないのかな・・・>
歩きたくはない。だって雨だもん。
余裕で対面通行できる幅が、時々、車1台がやっと通れる幅になったりする、可変式の獣道を高級な軽自動車で行ったり来たりする。
<おかしいなぁ・・・>
地図に記載された道を探しているのだが、その道がない。<この辺にあるはずの道がないものよっ・・・!>
どんどんと日没が近付く。
私は焦り始めていた。
<道がないなんてことあるのか・・・!獣道すらないっ・・・!>
道路上では、工事を何箇所もしている。
行ったり来たりしているあいだ、ガードマンが振る赤旗により、何度も足止めを喰らう。
<これまたえらくたくさん工事を・・・>
ガードマンは高級な軽自動車が差し掛かるたび、待ち構えていたように赤旗を振る。私は焦り、悪態をつく。<どうせ落とし穴用の水路でも掘ってるんでしょぉぉぉぅぅー!>
同じ道を何度か往復した。
<あらっ・・・!あそこにも道が・・・!>
私はガードマンの背中側に道があるのに気が付き、ハッとした。
それはガードマンに隠されて、見えなくされている道だった。
<ガードマンで3曲碑への道を隠すとは・・・!>
やたらと多い道路工事は、歌碑めぐり挑戦者を欺くため、道を隠すためのカモフラージュだったのだ。
さすがだ安芸市・・・!
簡単には歌碑めぐりさせてくれない・・・!
さらに試練は続く。
隠し道路へ浸入したはいいが、これまた獣道である。
<ハンドル操作をちょっと誤ったら、民家へ突っ込んじゃうよ・・・!>
これも歌碑めぐりにおける、安芸市の陰謀に違いない。
きっと・・・獣道の先に歌碑を置いたのではない。
歌碑の手前に獣道を通し、両脇に民家を設置したのだ。
その仮説を口にした瞬間に、額から脂汗が滴った。
<やりかねない・・・!安芸市ならやりかねない・・・!>
7つ目の歌碑「お山のお猿」は、『浄貞寺(じょうていじ)』というお寺の敷地内にあった。
「3番!お山のお猿!」
キラッ☆
<久しぶりにキラッ☆ってやっちゃったな!>
高級な軽自動車に戻りながら、私は照れ笑いを浮かべた。<7つ目ですよ・・・もう他にポーズを思いつかなくなってきたぞぉ!>
「お山のお猿」だし、猿のマネをすればよかったのかもしれないが、いずれにせよ、後の祭りだ。
あと3つ!
安芸市中心部へ戻る。
「9番!金魚の昼寝!」
なぜかファイティングポーズ!
「竹原慎二をイメージしてみました・・・」
と私は独り言を述べた。「あと2つやけど、日が暮れるけぇ急いどるんじゃ。じゃあの。金魚」
9つ目の歌碑は、ごめんなはり線の「安芸駅」にあった。
「10番!靴が鳴る!」
※ 靴を鳴らしているところです。
<いやぁ疲れた・・・>
安芸市中心部から進路を西へ取り、最後の歌碑を目指す。<こんなに大変だとは思わなかった・・・>
時刻は17時を回っていた。
軽い気持ちで歌碑めぐりを始めてから、2時間以上が経過している。
<着いた・・・これで最後だ・・・やっと帰れる・・・>
最後の歌碑は海辺にあった。
思えば、最初に回った大山岬の歌碑も海辺にあった。
海辺の歌碑で始まり、海辺の歌碑で終わるのだ。
歌碑に刻まれた曲名は、「雨」
<雨か・・・まさに今日が・・・雨の日だな・・・>
私は自然と両手を広げた。
いま降っている雨を掌で、指先で、感じようとした。
だが雨は落ちてこない。
雨には、雨を凌ぐための、傘があった。
弘田龍太郎の雨を守るように、傘は開いていた。
(安芸市!弘田龍太郎!歌碑めぐり!完)