私は一人で知らないうどん屋に入れるが、
知らない飲み屋には入れない。
私は一人で知らないラーメン屋に入れるが、
知らない飲み屋には入れない。
一人で街で飲むときは、
いつも馴染みのBARにしか行かない。
知らない人だらけの空間で、
知らない人と話すのがイヤなんだ。
だけど、放って置かれるのもイヤなんだ。
私は……………。
コミュ障……!
馴染みのBARが閉まると、もう行く店がなかった。
まだ飲み足りなくても、行ける店がなかった。
一人で歩く深夜の飲み屋街。
通りのスナックから漏れる、カラオケを歌うおじさんの声。
楽しげに響く軽快な手拍子。
寂しい……!
俺は孤独………!
一応、友達だってたぶんいるし、家に帰れば家族もいる。
でも………。
いまの俺は…………。
絶望的に孤独…!
コミュ力が欲しい……。
度胸が欲しい……。
でもダメっ………!
知らない人……!怖いっ……!
そんな私にとって、
『ぎゅうせん』はパラダイスだった。
24時間ずっと開いていて、朝まで飲める。一人で。
一人で飲めて、ずっと誰とも話さなくていい。
放って置かれても大丈夫な空気。
ノスタルジックな空間。
カウンターに突っ伏して、数名の客がイビキをかいて寝ているのが日常。
おおよそのリア充は行きたがらない世界…!
それが『ぎゅうせん』……!
『ぎゅうせん』は私のパラダイスだった。
その『ぎゅうせん』が、2015年1月31日で閉店してしまうというのだ。
きっと大人の事情があるのだろう。
私だって子供じゃない。
現実を受け入れられず、泣き喚いたりはしない。
世の中のおおよそは、
仕方のないことばかりなのだ。
私は見届ける……。
数々の酔っ払いを寝かせてきた『ぎゅうせん』の最期を。
行こう……!
食べ納めの向こう側へ……!
年始の夜……!
正月早々…のこのこ入店…!
(画像では完全に夜が明けているが気にしない!)
対峙する入口の券売機。
<お前とも…長い付き合いだったな……>
いつしか私たちのあいだには友情さえ芽生えていた。
無言で食券を買い、
「これ…すいません…」
と多少は言葉を発しながら店員さんに食券を渡す。
それからセルフサービスのおでんを取って、カウンター席に腰を下ろす。
はっはっはっ……!
また牛すじを多めに取ってしまったぞっ!
牛すじを一口……!
串に刺したまま咥えて……!
生ビールを流し込むっ……!
瞬間………!
全身を駆け巡る電流……!
あぁっ……………!
平民の幸せっ……!!
肉を噛み締めていると、ラーメンが来た。
私が買った食券には、こう書かれていた。
「とんこつらーめん 490円」
昨今のラーメン高級化の時代に、
ワンコインにさえ満たない低価格。
「そりゃあんた、アレがどうでコレがどうだから安いんだよ」
と、人は言うだろう。
だがしかし、これがいい……!
この奇を衒っていない感じが、いい…!
それが偉い人にはわからんがですよ…!
どうってことない麺に、
どうってことないスープ…!
普通のメンマに、
普通のチャーシュー!
だからいいっ……!
攻めたコダワリの一杯を食べたいときもあれば、
攻める気さえない普通の一杯を食べたいときもある…!
閉店まであと少し。
思い出はまだ増える。