<ラーメンの上にトンカツが乗っている・・・!
ラーメンの上にトンカツだぞ・・・!いいのかよ・・・こんな贅沢っ・・・!>
子供の頃、オカンに連れられて行った『豚太郎』
そこで受けた衝撃は、未だに忘れることができない。
あれから20年。
私は自分で働いて得たお金で、
『セレブの食べ物・味噌カツラーメン』を食べられるようになった。
毎日食べたらさすがに懐具合が苦しくなるけれど、
時々だったら食べられるようになった。
そんな味噌カツラーメンが、近年、全国どこでも食べられる物ではなくて、
高知特有の食べ物であると知ったときには、すこぶる驚いたのと同時に、
高知で生まれ育ったことを幸せに思った、人生で初めて。
でも不思議なことに、味噌カツラーメンはあるのに、
『味噌カツうどん』をやる店は無く、どこかのうどん屋さんがやっていても可笑しくはないのに、
なかなか本気で味噌カツうどんに向き合おうとしない各店に、前々から、じれったさを感じていた、
ら。
いつも楽しく、時に感動の涙を滝のように流しながら拝見している、
「イン○グ・ホー○ム」さんのブログに、さり気なく貼られたメニュー画像、
そこに衝撃の文字列が・・・!
<おい・・・みそカツうどんって書いてねぇかコレ・・・!
ねぇさん軽くスルーしてるけど、みそカツうどんって書いてねぇかコレ・・・!>
瞳孔をカッ開き、目を血走らせて見た画像、
そこにはたしかに『みそカツうどん』という表記があった。
<うぉぉぉぉ・・・!
ついにパンドラの箱を開ける店が現れた・・・!>
ラーメンの上にトンカツも贅沢だが、
うどんの上にトンカツは、私にとって、
嬉しすぎて気が狂いそうになる悶絶クラスの贅沢である。
決戦は数日後であった。
『さぬき 結』
(さぬき ゆい)
2010年7月のオープン以来だった。
<歴史を紐解いてみると、結ちゃん・・・!
アンタ2010年7月7日、七夕の日にオープンしてたんだったね・・・!>
七夕の日にオープンするだなんて、
なんとロマンチックで、なんと素敵なことなのだろうか。
私は感涙にむせびながら、
物凄く低い声で呟いた。
「ボクがキミの彦星だよ・・・」
さて、人生二度目の『結』・・・突入!
実際には、突入なんて物々しい言葉を使うほどでもなくて、気楽なものだった。
肩の力をこれでもかと抜きまくって戸を開けると、飛び込んでくる、見覚えのある肌色たち。
それは木の壁や木のカウンターの色で、
相変わらず、とにかく肌色だった。
けれども、私の記憶にある結の店内の間取りと、
現実の結の店内の間取りが少し違っていて違和感を感じたが、
まぁ、私の記憶と人間性は大体いい加減だから、なんとも言えない。
メニューに『みそカツうどん』の記載があるのを確認してから、
見覚えある顔の女将さんに、寸分のドモりもフレンチも無く注文する。
「みみみ・・・みそカツうどん・・・ふ・・ふ・・・二玉増しで・・・!」
「みそカツうどん三玉ですね!」
「うぃっ・・・うぃっ・・・!」
この時、ちょっとだけ思った。
<みそカツうどんの注文って、普段あんまり入らないんじゃないかな・・・!?
少なくとも、ジャンジャン注文が入りまくる品ではないだろう・・・!
珍しくみそカツの注文が入って・・・大将・・内心嬉しいと思っていたりして・・・!>
そんな私の心の声が伝わってしまったのか、
厨房の奥から、大将の心の声が聞こえてきた。
「嬉しいとなんて、思ってないんだからねっ☆」
大将は意外とツンデレだ。
そうやって他愛も無く面白い、
実際には、ありもしないやり取りを勝手に想像して楽しんでいると、
ソイツは味噌の香りを漂い散らせながら現れた。
『みそカツうどん(3玉)』
想像通り、期待通りである褐色の海をワカメが席巻しながら、中央にゆで卵、
そして我らがトンカツ大先生が強烈な存在感で鎮座する。
トンカツを箸でつまんで驚いた。
蒸したての"中華まん"みたいに柔らかいのだ。
箸で切れる予感がして、
グッと箸先に力を込めてみたら、実際に七割方、切れた。
トンカツ界の常識を覆す柔らかさである。
トンカツ界の常識を、うどん屋が覆しにかかっているという事実の凄味、
気迫みたいなものを結から感じたと同時に、私は少し無念でもあった。
<あと少し!あとほんの少し俺の握力が強ければ・・・!
ハンマー投げの室伏広治ぐらいの握力さえあれば・・・!
あるいは全量を切り落とすことが出来ていたハズなのに・・・!>
チクショー!と思った。やさぐれてやる!とも思った。
しかし冷静に、握力があっても割箸が持たないかな・・・なんていう風にも思った。
トンカツを箸で切り落とすことは諦めて、
白く横たわるうどんに、いよいよ箸を向ける。
<表面にムチムチとした弾力・・・噛みこんでゆくと、最初は柔らかく、
その後、芯部で切り替えして押し返すカウンター攻撃・・・!>
アルデンテが明確化されている・・・!
オープン当初の記憶を掘り起こして比べてみても、全体的に強くなった弾力、
そして、柔らかめな部分と固めな部分とのメリハリが以前よりハッキリ感じられるようになった、
さらに、よくありがちな、"麺が細くなっている"というパターンにも陥っていないのが嬉しい!
それこそ『味噌煮込みうどん』を彷彿させる、かなり濃厚な味噌が、
麺に纏わり付いて強烈な攻撃力を放ちながら、喉を通って落ちてゆく。
うどんと、トンカツを、同時に噛み締められる幸せ。
愉悦に浸りながら、
ついに私はある種の悟りを開いてしまう。
<ボクが・・・今・・・噛み締めているのは・・・
もしかすると・・・うどんとトンカツではないのかもしれない・・・>
<そうだ・・・!
きっとそうだ・・・!>
ボクが今噛み締めているのは、
うどんやカツなんかじゃなくて・・・幸せ・・・!
今ボクは幸せを噛み締めているんだ・・・!
『ちくわ磯辺揚げ』
以前は、セルフでもないのに冷めた作り置きが来て残念に思ったのだけれど、
なんと!コレが熱々の揚げたてになっていた!
衣はカラッと揚がっているのに、中の竹輪は限りなく生に近いクニュクニュの食感。
噛むと、分厚い竹輪から旨味を含んだ油がジュワジュワと溢れ出して、美味い!すこぶる美味い!
『かけうどん(1.5玉)』
ネギが少し乗っただけの、
誤魔化し無し、直球勝負のかけうどん。
既に投球練習の段階から、
場内のスピードガン表示では、150キロ以上を記録している。
<デッドウドンに気を付けて食べないとな・・・!>
スッキリとした味わいの出汁の特性からか、
おろし生姜を入れると、出汁に生姜が圧勝してしまうということで、
オープン当初に気になっていた生姜は「別盛り」になっていた。
これも嬉しい変更点である。
(とにかく結は、驚くほどユーザーの声をシッカリと取り入れている!)
最も懸念していたのは、「生姜を使うこと自体をヤメられてしまう」ということだった。
これは私の職業が生姜生産者だから言うわけではなくて、
「かけに生姜を入れねぇで、なにがかけうどんだ!」という人も世の中には多い。
それも踏まえて生姜は絶対にあったほうが良いと思ったし、
実際のところ、結のかけ出汁に生姜はすごく合っていた。
合っていたけれど、強く出易い傾向があると思うから、
「生姜が嫌な人の好みにも合わせられるようにするには、別盛りが最善策ではないのか」
というのが当時の私が思ったことだったし、
あの日、女将さんに追いかけられて感想を聞かれた際に、本当は言いたかったことだった。
試行錯誤の果てに、斜め上だとか斜め下に行っちゃった風に見える店も多々ある中、
真っ直ぐ上に、確実な正常進化を遂げていた結が放った一撃、『みそカツうどん』は、
私の心に強烈なインパクトでアルデンテの紋章を刻み込んだ。
◆ さぬき 結
(高知県高知市高須3丁目27-19)
営業時間/10時30分~16時
定休日/第2、第4、第5日曜日
営業形態/一般店
駐車場/店舗、向かって右側に有り
(みそカツうどん680円、かけうどん380円、ぶっかけうどん420円など、半玉増し50円増、一玉増し100円増)
『さぬき結』の場所はココ・・・!