『前編を読む』
やがてオバチャンは「はちきん定食」が乗った盆を持って、再び現れた。
<ハチキンそうなオバチャンが、はちきん定食を>と私は思った。
定食のうどんは通常、いわゆる"かけうどん"で提供されるようだった。
けれども私が行ったこの日は、偶然にもトッピング無料の日だということで、"肉、きつね、月見"などの中から、好きなトッピングがひとつ無料で選べるということだった。
私は自分でも驚くほどの優柔不断で決断力がないけれど、この局面では迷わなかった。
即答で選択するは、「肉」
値段が一番高そうだったからだ。
こういうときに出る。貧乏性ならではの、"セコさ"
麺は急げ。
タタキとのセット。先にうどんから食べる。
箸でつまむ。麺は出汁を滴らしてる。
肉の煮汁が溶けた出汁。ふんわり広がる。
カツオのタタキ。
太平洋。
それからこの局面では天下のうどんを差し置いての主役であろう、おむすびに手を伸ばす。
<俵型・・・!>
一口食べる。中から何か出てきた。<昆布ッ・・・昆布ッ・・・!>
コイツ・・・!
塩むすびじゃないっ・・・!
具なしの塩むすびだろう、という戦前からの私の予想は覆された。
<どこから見ても塩むすびだと思っていたのに・・・!>
おむすびは、見かけによらない。
ひとつは昆布。もうひとつは梅が中に入っていた。
<ありがたいっ・・・!>
と私は思った。<風前の灯火だった銀行口座に、想定外のお金が振り込まれていたときの気分・・・!>
うどん、おむすび、タタキ。
炭水化物、炭水化物、魚。
よい具合にお腹が張った。
タタキは土佐人の心を満たし、うどんはうどん野郎の魂を満たし、おむすびは日本人としての・・・。
・・・!ナニカを満たしたのだった・・・!
『花かご定食』
(うどん、おむすび、唐揚げのセット)
(巨大唐揚げが3つ、天高くそびえる!)
(花かご定食は、はちきん定食の"俵型"とは違う形状のおむすびで三角形)
食べ終えて、席を立つ。
オバチャンに舌代を払って、外へ。
雨は降っていなかったけれど、相変わらずネズミ色の空が広がっていた。チュー。
そのときだった。
店のオバチャンが店から出てきた。かなり慌てている。
「お客さん!これ・・・!」
と私に言うオバチャン。見ると片手にiPhoneを握り締めている。
「はぅぁっ・・・!」
私は驚愕した。
<そんじゅそこらには売っていない・・・こともない!ドコカで見た圧倒的可愛らしさの"鰹にゃんこ"のケースッ・・・!他の量産型と同じ洗練されたデザインッッッ・・・!誰が見てもソイツは俺のiPhone・・・!>
「あぁっ・・・!忘れちょった!」
私は土佐弁でオバチャンにそう言った。私は店にiPhoneを忘れていた。
するとオバチャンは、iPhoneを私の眼前にかざし、ニヤリと笑って言った。
「もうちょっとで忘れて帰りよったねぇ!
ほいたら・・・!」
「100万円・・・!」
「ひゃ・・・ひゃくまんえん・・・!?」
私は怯みながら苦笑した。「こらえてくださいよー!」
「まだおったき良かったわー!」
と言いながらオバチャンは目尻を下げた。
「食器を下げよったら椅子の上にコレがあったき、慌てて追いかけたがよー!」
「あぁ・・・すいませんすいません!」
私はお礼した。<危なかった・・・もう少しで2ヶ月連続の携帯紛失をしてしまうところだった・・・>
その後。
「おむすびころりん」と同じ敷地内にある、お土産物屋(?)「かつお船」に寄った。
「おむすびころりん」の店内のポップで見かけた、謎の「苺氷り」のことが何だか気になっていて、この機会に食べてみたいと思ったのだ。
いま食べておかなければ、もう会えないかもしれない。苺氷り。
苺氷り。苺氷り。涼しい顔した苺氷り。甘くて冷たそうな苺氷り。
苺氷りの上にはソフトクリームを乗せることも可能なようだった。
けれども私のお腹はソコソコ張っていた。私はソフトクリームを乗せなかった。
「かつお船」のオバチャンが丁寧に拵えてくれた、苺氷り。
それを駐車場に停めた高級な軽自動車の車内で食べる。
カキ氷の上に、苺のシロップと練乳がかかっている。
私は小さなプラスチックのスプーンで苺氷りをすくって口へ運んだ。
氷は舌の上ですぐさま融ける。ヒュッと。新幹線みたいな速度で。
この1ヵ月後ぐらいに、苺氷りと思わぬ場所で再会した話は先に更新されているッ!
『ひろめ市場内「龍馬茶屋」 苺氷り』
◆ おむすびころりん
(高知県高知市仁井田201−2)
営業時間/11:00~15:00
定休日/無
駐車場/有
「おむすびころりん」の地図・・・!