『EP3を読む』
正月時期。ひろめ市場。
『ファミーユ』のカウンターは満席。
「高知の方ですか?」
左隣に座る短髪のオジサンが言った。
肌が少し陽に焼けていて、綺麗な褐色をしている。
「そうです!高知です!」
オジサンは愛媛県から来たのだと言った。
奥さんも一緒だった。オジサンのさらに左隣に座っていた。
ソルティードッグ経由からのウィスキー。
すでに2杯目。
「ファミーユ…初めてですか?」
コミュ障農家、頑張ってオジサンに訊いてみた。
「もう何回もきてますよ!高知に来るたびに寄ってて…年に…そうやなぁ…年に何回ぐらいやろ…」
そう言ってオジサンは、隣に座る奥さんを見た。
「年に何回ぐらいきよるっけ?」
「んん…何回ぐらいやろ…」
奥さんは宙を見上げて微笑んだ。
とにかく愛媛から、年間に複数回、来られているようだった。
あっちゃん!すごい!
愛媛県民をも取り込む!
圧倒的…中毒性っ…!!
ファミーユのマスター・あっちゃん。
その魔力の恐ろしさ。
鳥肌がエースコックの焼そばみたいに、ジャンジャン立った。
愛媛から来られたご夫婦相手に、コミュ障。
精一杯の会話を展開。
意外にもソコソコ弾む会話。
<やればできる…やればできるじゃん…俺…話そうと思えば日本語話せるじゃん…!>
感極まっていると、ファミーユのすぐ裏にある『吉照(よししょう)』
そこの美人店員さんが持ってきてくれた。
『醤油タタキ丼』
愛媛からきたご夫妻の、旦那さんが言う。
「それ…なにいうもんですか?」
「醤油タタキ丼いうがですけど…」
「美味しいんですか?」
「どうながでしょうね…」
吉照のタタキ丼を食べるのは初めて。
当然その味、まだわからない。
俺は吉照のタタキ丼のことを知らない…!
知っているのは…!
ご飯の上にタタキが載ってんなぁ!
ってことぐらいだ…!
知らない……!
だからこそ…知りたいっ…!!
この中に…どんな魅力が隠されているんだろう…!
きっと素敵なはずだ…!絶対的にチャーミングなはずだ…!
俺は知りたいっ…!
このドンブリの…すべてを…!!
黒っぽい色した団子、丼上に鎮座。
「醤油が薄かった場合、それを崩して一緒に食べるといい」
と『吉照』の店員さんが教えてくれた。
ガブッ…!
<これは…………!>
タタキに醤油が…!
染み込んで…るぅぅぅぅぅ…!!
醤油ダレにタタキを浸けて作った…ように見える一品。
通常のタタキ丼とは、また違った雰囲気。
<醤油の味がズッシリくる…!だがもっと醤油が欲しくなる不思議…!摩訶不思議現象…!>
醤油団子を崩す。
そしてそれをタタキに付けて食べる。
<ぐあぁぁぁああぁぁぁ……!>
圧倒的…!
醤油世界…!!
「醤油世界」と書いて、
「醤油ワールド」と読む!
吉照。
4杯目のタタキ丼。
もうダメっ…!
抜けられないっ……!
食べれば食べるほど…!
タタキ丼の魅力に…絡め取られていく…!
未曾有のタタキ丼4連打。
朦朧とする意識の中で、私はヨロヨロと席を立った。
(EP5へ続く…!)
『EP5を読む』