私は麺が好きだ。
私は麺が大好きだ。
麺の中でも、一番好きなのは、うどんだ。
だけど、ラーメンも好きだ。
そうだ!
今日は、ラーメンにしよう・・・!
どうせ食べるなら・・・ガッツリ・・・!
体中がラーメンで満ち溢れるほど・・・!
食べたいっ・・・!
その時。
竜一、閃く。
ガッツリ食べられる店といえば・・・あの店だ・・・!
今まで・・・行きたいと思っていながら・・・!
遠くてなかなか行くことが出来なかったあの店・・・!
デカ盛の聖地・・・!
ひばり食堂・・・!
何でも、そのひばり食堂という名の食堂。
カツ丼の大盛が有名で、ご飯の量は、並でも一合、大盛が二合、
『倍盛』という量になると、なんと!四合もあるのだと聞く。
まぁ、今回、私が食べる予定なのは、
カツ丼じゃなくて、ラーメンなのだけどね。
場所は、高知県と徳島県の県境がある町、大豊町。
当然、
高速道路には乗らずに、
一般道で行く。
高速に乗る金・・・?
そんなものは無いっ・・・!
というわけで、南国インターチェンジ入口を横目に、
そこから適度な速度で走って、30分弱。
着いた目的地。
ひばり食堂の前を、一旦横切って、駐車場を探す。
事前に、駐車場が、道と平行して流れる川の対岸。
つまり、店から離れた場所にあるという情報は掴んでいた。
向こうに見える、あれが駐車場かな?
間違いねぇ・・・!
ここが駐車場だ・・・!
思ったよりも近かった大豊までの距離とは裏腹に、
駐車場から店までの距離は遠かった。
見ろっ・・・!
ひばり食堂が米粒のようだ・・・!
折角だから、大豊の自然を満喫しながら、歩いて行く。
森の香りがする空気。
寒いからか、川の中に魚は一匹も見当たらなかった。
テクテクと歩いて、大豊町役場前。
ついに到着。
『ひばり食堂』
ここが・・・知る人ぞ知る、
デカ盛の聖地か・・・!
まるで、ただの田舎の食堂のように佇むその姿。
能ある聖地は、爪を隠すのだ。
意を決して飛び込んだ店内。
ほぼ満席。
老若男女、皆、黙々と箸を進めている。
そして竜一、この時。
まだ店の人に気付いてもらえていない。
カウンター越し。
厨房にいる人に声を掛ける。
「あ・・・あの・・・!
ま・・ままま・・・満席ですか・・・?」
蚊の羽音ボイスに気が付いた店のおばちゃん。
「あ~空いてる席に座っといて下さい。あとで行きますので」
「は・・・はい・・・」
返事をしながら、
竜一、少し困惑。
空いてる席にって・・・。
それはつまり・・・。
戸惑っていたその時、
席を立つ中年夫婦。
見えたっ・・・!
眩い閃光・・・!
希望の光っ・・・!
座れるっ・・・!
座れるおっ・・・!
イス取りゲームのように、
全力で、夫婦が座っていたイスを確保。
誰にも渡さねぇ・・・!
コイツは俺のイスっ・・・!
心の恋人なんだっ・・・!
とりあえず、
大人しく座って待つ。
店内、静か。
話し声も、ほとんど聞こえない。
20人ほどの人がいるとは思えない静寂の中で、
途中、本当に注文を取りに来てくれるのかと不安になりながらも、
待てと言われたからと、気長に待った。
しばらくすると、
水が入ったコップを、手にガシッと掴んで、
おばちゃんが現れた。
「なんにしましょ?」
「ちゃ・・・ちゃちゃ・・・チャーシューメン!」
「すみません、ラーメン・・・!
今、麺が切れてて無いんですよ」
Σ( ̄ ̄ ̄Д ̄ ̄ ̄lll) ガビーン
脳内で、
再生される杏里。
ラーメンが食べたくてここまで来たのに・・・!
無いだなんて・・・!
どうしてなの・・・!
悲しみがとまらない。
チワワのように潤んだ瞳で、
おばちゃんを見つめる。
しかし、おばちゃん。
圧倒的・・・!
無表情・・・!
仕方ない・・・。
なにか別のものを頼むしかねぇな・・・。
だが、竜一。
決められない。
チャーシューメンに代わる代打が決められない。
傍らでは依然として、おばちゃんが無表情で待っている。
ダメだ・・・!
見えねぇ・・・!
メニューはいっぱいあるのに・・・!
あの文字しか見えねぇ・・・!
実はこの時。
竜一の脳内では、ある言葉が連呼されていた。
「カツ丼・・・カツ丼・・・カツ丼・・・」
『ひばり食堂=カツ丼』
このイメージが強すぎて、
カツ丼以外のメニューに目が行かないのである。
だけど・・・待てよ・・・これは・・・!
言っているんだよ・・・!
天が俺に食えと言っているんだ・・・!
伝説のカツ丼を・・・!
ひばり・・・!
この聖地の大盛カツ丼を・・・!
食えとっ・・・!
運命に導かれるように・・・!
意を決して・・・!
おばちゃんに・・・頼む・・・!
「じゃ・・じゃあ・・・かか・・カツ丼で・・・」
しかし・・・竜一・・・!
頼んだのは、まさかの並・・・!
普通の・・・並・・・!
大盛なんか食えるかっ・・・!
二合だぜっ・・・二合っ・・・!
普段・・・うどんをバカ食いしている・・・
あれは・・・うどんだから出来る芸当・・・。
愛で乗り越えられている量・・・。
カツ丼は・・・!
うどんじゃねぇ・・・!
だが、並でも一合あるという噂のカツ丼。
どんなものなのかと楽しみで、
待っているあいだにも、期待がドンドンと膨らんだ。
「お待たせしましたー。カツ丼です」
そう言いながら、おばちゃんは、
野球選手がサイドスローでボールを投げるみたいにして、
丼を横手投げで、テーブルの上に「ストォーン!」と置いた。
そして、間髪置かず、
味噌汁が入った器をやはり横手投げで、
今度は「スーっ」と滑らすように、滑らかに置いた。
「これが聖地の技か!」と大変に感銘を受けながら、
私は丼の蓋を開くのだった。
伝説の『カツ丼』
~食べることが、運命だった~
ご飯の上には、
カツがドサッと二枚、乗っている。
そして、脇には、
厚さ1センチほどのカブの漬物が二枚、鎮座。
玉子は、半熟と言うより、
限りなく生に近い。
時刻は13時半ほど。
だが、さすがはデカ盛の聖地。
こんな山の中で、しかも平日なのに、
次から次へと、お客さんがやって来る。
それほど広くは無い店内。
順次、相席して行かないと座れない。
当たり前だが、
誰にとっても、知らない他人と相席して、
気を使いながら飯を食うことは、嬉しいことではない。
来た人は皆、どこかに相席しないと座れないことを告げられると、
一様に戸惑いの表情を浮かべながらも、
仕方が無いから、座っている人に断りを入れながら相席して行っている。
私の隣の席も、一人分空いていたのだけれど、
座り易い入り口近くの席にも拘らず、誰も座ってこない。
それはそれでラッキー。
と思いながらも、
もしかして、俺は臭いのではないか。
そう疑心暗鬼し始めた頃、
一人の作業着姿のおじさんが近付いて来た。
「ここ、いいですか?」
明らかな作り笑いを浮かべて、
そう聞いてくるおじさん。
だが、竜一その時。
口の中、カツ丼で一杯。
「う・・・うっ・・・うっ・・・」
二度三度、ガクガクと頷きながらそう答えた。
そして、おじさんが手にした漫画本のページを、
パラパラとめくり始めた頃・・・。
完食っ・・・!
最初、見た目が思ったほどの迫力ではなかったのと、
普段から一食で一合ほどの米を食べている実績から、
二合は危険だが、一合なら余裕だと踏んでいたのだけれど、
実際に食べてみると、二枚のカツの攻撃力で、
最後の方は、カツが、まるで鮭のように、
産まれた川をさかのぼろうとしていたのだった。
◆ ひばり食堂
営業時間/11:30~18:30(11月~2月は17:30まで)
定休日/無
駐車場/有(北側の信号がある交差点を曲がって橋を渡ると有ります)
(カツ丼700円)
「ひばり食堂(ひばり会館)」の場所はここ!