4月のある日。
私は、今や高知でも指折りの人気店となった、香美市の「まるしん」にいた。
平日でも、昼時には容赦なく出来る行列。
それを避けるために、11時過ぎに入店。
すでに店内には数名の先客がいたが、難なく座れた。
けれども、うどんを注文して待っているあいだに、
次から次へと客が来て、アッと言う間に満席。
外で空席を待つ客も出始める状況。さすがである。
注文したうどんは、かなり奮発した一杯だった。
人の心というのは面白いもので、同じ私という人間でも、
「シンプルなうどんが食べたい」と思うときもあれば、
「たくさん具が乗ったうどん」を食べたくなるときもある。
今回は、後者。
ガッツリ逝きたい。
『冷山肉しょうゆ(特盛)』
(冷山 = ひややま)
前はいなかったが、最近いる店のおばちゃんが運んできたそれは、
「冷山肉しょうゆ」という、「しょうゆうどん」の上に「肉」と「山芋とろろ」が乗った一杯。
「冷山」の「山」は、当然、"山芋とろろ"の「山」だろうけれど、
ドンブリの上端からハミ出るほど盛られた具を見ると、
まさに「冷たい山」・・・"マウンテン"のほうの「山」みたいな様相でもある。
麺上は覆い尽くされている。
上空から麺を確認することはできない。
欲望に任せて肉の側から、
肉ごと麺を取り出して登ろうとするも、ダメだ。
麺が重い。
3玉分の麺が絡み合って、
さらにその上に重量級の肉が漬物石みたいに乗っているので、
取れない、取り出せない、取り出せるわけがない!
無理をすると、箸が折れる。
そこで一旦冷静になって、
山芋側から登ることにした。
実際の山を登るときと同じだ。
登るルートによって、同じ山でも難易度が異なる。
「冷山肉しょうゆ」を登るには、
肉の側からでは難易度が高すぎる。
それに満席の店内に、
「グシャ!」と箸がヘシ折れた音を響かせるのは、
いささか恥ずかしいではないか。
肉の側からの登頂は諦めて、
山芋の側に、箸という名の"トレッキングポール"を突きたてる。
しかし、それでも重い。
必死で麺を取り出しながら思った。
この麺の重さは、まるしんの魂の重さなのだ、と。
私は大げさな人である。
それにしても山芋と塩気のある肉は、
まるしんのツルツルとした麺によく合う。
定期的に生姜を投入して、醤油がかかっていない場所に、醤油をかけ増して、
「ガブリガブリ」と掻き込むようにして、食べ進む。
最後、0.3玉分ほどのところで、
さすがに腹が苦しくなり始めたので、
柚子酢をかけて、味に変化を加えるという技を用いて、完食。
以前の私は、味が変わるだの、香りも変わるだの、
食感も変わる気がするだのなんだの御託を抜かして、
うどんに柑橘類をかけるのを非常に嫌っていたが、
最近は、途中からかけたりすることで、
うどんの変化を楽しめる、ということに、ようやく気が付き始めたし、
少し余裕を持って、うどんを食べられるようになってきた。
思えば、若い頃は、
うどんを食べていても、前のめりで、
鼻からうどんをすすり込む勢いだった。
もちろん今は大人になったから、前のめりではなく、
後ろに、ふんぞり返るようにして、うどんを食べているけれど・・・。
食べ終えて、「ギィーギィー」鳴る戸を開けて外に出ると、
春らしい、あたたかいような冷たいような、何とも言い難い風が、
そよそよそよそよそよそよそよそよと吹いていた。
◆ 手打ちうどん まるしん
(高知県香美市土佐山田町楠目339)
営業時間/11時~18時
定休日/月曜日
営業形態/一般店
駐車場/8台
冷山肉しょうゆ750円、肉ぶっかけ680円、ひやかけ380円、かきあげぶっかけ500円、スペシャルぶっかけ650円、
しょうゆ380円、温玉ぶっかけ480円、揚げ餅100円、中盛50円増、大盛100円増、特盛200円増など)
『手打ちうどんまるしん』の場所はココっ・・・!