『前編を読む』
そろりと戸を開けた。
セルフ店だということは、
事前の調査でわかっている。
注文カウンターまで進むと、店主らしき男性がいた。
店主"らしき"男性というか、
この人が間違いなく店主さんだと言い切れる。
地元タウン情報誌、「ほっとこうち6月号」の企画で、"うどん特集"があり、
その際に「さぬきや」と共に、眼前の男性が写真つきで掲載されていたからだ。
私の前には作業着姿の男性が二人並んでいた。
「ぶっかけの大で・・・!」
「ぶっかけの大で・・・!」
直前の二人は共に、「ぶっかけの大」
廻ってきた私の順。
「ぶっかけの大」が二人続いたこの局面。
私で"三連続ぶっかけ"となれば、
"スリーぶっかけ"でフィーバー。
心なしか、店主さんも、
フィーバーを望んでいるように見えた。
梅雨入り直前だった6月初旬。
サッパリと「ぶっかけ」・・・それも悪くない。
悪くないが、
そう簡単にフィーバーさせるわけにはいかない・・・!
「釜玉の大で・・・!」
店主さんから告げられた時間を正しくは覚えてはいないが、
とにかく、数分、時間がかかるけれど良いか、という旨を訊かれて、私は同意した。
すると、これに薬味を入れて待てと、
刺身醤油を入れるみたいな小皿を渡された。
私は、その小皿の容量の限界まで
「ネギ」や「天カス」や「生姜」を入れた。
上へ、上へ、山のように小皿に薬味を盛ってゆく。
<釜玉は・・・薬味をテンコ盛りにして食べたほうが・・・絶対に美味しい・・・!
小皿が小皿である理由はわからないでもないけれど・・・!
私とて・・・うどんファイターだ・・・!譲れん・・・!譲れはせんぞっ・・・!>
先に会計を終えて、席で待つ。
意外に広い「さぬきや」店内。
近隣で働く人々が昼食処として利用しているようで、作業着姿の男性が多い。
『釜玉うどん(大) & ちくわ天』
数分後、店のおばちゃんが持ってきてくれた、釜玉。
タマゴは、あらかじめ割り入れられているものの、混ぜられていない。
いわゆる、「目玉スタイル」(なんだそりゃ)である。
早速、グルリグルリと混ぜる。
すると、タマゴは魔法をかけられたみたいに、良い具合の半熟になりおおす!
<ぐやぁっ・・・旨そうじゃ・・・旨そうじゃ・・・!>
小皿に目一杯盛った薬味を、
混ぜおおし、半熟になりおおした釜玉の上に乗せたとき、私の人格は崩壊した。
<ふぉぉぉぉ・・・!
結構シコシコ系なんじゃのぉっ・・・!>
そのとき、釜玉が喋った。
「ワシ・・・最近・・・出番少ないねん・・・!
このごろ暑くなってきたやろ・・・!?
みんな、ぶっかけばっかり頼んで、たまに違うのきたと思ったら、かけやで・・・!」
「ほうほう・・・!」
「ワシ、すごい疎外感よ、俺もメニューに載ってんで・・・?
やのに・・・みんな、かけ、ぶっかけ・・・!竜ちゃん、どう思う・・・?」
「せやなぁ、俺がお前を頼むときも、スリーぶっかけ寸前の局面やったからなぁ・・・!」
釜玉は、なおも興奮気味に言った。
「やろ?やろ?ぶっかけとかフィーバーしまくり・・・!
釜玉さん、フィーバーどころか、ちょっと時間がかかるけどええか?言うたら、
じゃあいいです言われる始末よ・・・!可愛そうやろ・・・!?」
私は、懸命に釜玉の興奮を鎮めようとした。
「まぁ・・・みんな仕事の合間やったりして、時間無いやろしな・・・!
しゃあないでそれは・・・!」
一瞬、二人のあいだに沈黙の時が流れた。
「竜ちゃん・・・そこは、"しゃあない"やのうて、
"しょうがない"、もとい"生姜無い"言うて欲しかったな、アンタ生姜農家やし・・・!」
「あぁ・・・そうか・・・すまんすまん・・・!」
「せやけど、ワシ・・・やっぱり忙しい人からは敬遠されるんや・・・
生タマゴ嫌いの人からも・・・暑がりの人からも敬遠されて・・・うっ・・うっ・・・!」
私は、釜玉の目を見て語りかけた。
「なぁ、釜玉・・・!
たとえ他の誰もがお前に見向きもしなくても・・・
俺はお前のこと、注文するぜ・・・!」
「竜ちゃん・・・!」
『かけうどん(大) & ちくわ天』
ちょっぴりフテクサレ気味の釜玉との会話を楽しんで、
外に出ると、雨は少しだけ小降りになっていた。
◆ セルフうどん さぬきや
(高知県高知市神田1073-1)
営業時間/11時~15時
定休日/月曜日
営業形態/セルフ
駐車場/12台
(釜玉300円、かけ250円、大[2玉]は100円増、ちくわ天80円など)
『さぬきや』の場所はココ・・・!