「さぬきや」は唐突に私を襲ってきた。
朝起きて、雨だ。今日は休みだな。
そう思った数時間後には、私は車に乗って、
高知市神田の住宅街を目指していた。
<今すぐに・・・"さぬきや"に行かないと・・・!
行かないといけないんだ・・・!>
これまでに何度か「さぬきや」の前までは、
"偵察"という名目で行ったことがあった。
しかし、それは、あくまで"偵察"なので、
店の中には一度も入ったことがなかった。
入りたいとは思わなかった。
中に入るには、なにか少し、なにか少し背中を押してくれるものがなかったのだ。
けれども、その日は違った。
朝起きたときから、窓の外に雨音の調べを聴いたときから、
このまま「さぬきや」に行かないと、人生の9割を損して終わる気がした。
なぜ、そんな気がしたのかはわからない。
ただ、そんな気がしたのである。
<行かないと・・・!
今日こそ"さぬきや"に行かないと・・・9割損・・・!
ダメっ・・・ダメっ・・・行かなきゃダメっ・・・!>
"さぬきや"に行ってこその、農業界のうどん野郎・・・!
"さぬきや"に行かないうどん野郎は、
ただの農民っ・・・!!
そのとき、突然現れたジーナは、静かに呟いた。
「どうやったらアナタにかけられた、うどんの呪いがとけるのかしらね・・・」
(「紅の豚」ネタである)
時折、強い雨が降ったり止んだりする中、
住宅街を縫う、車がどうにか行き違えるぐらいの細い路地を進行。
やがて、眼前に目的の店が現れた。
『セルフうどん さぬきや』
普段なら避ける12時台に差し掛かってしまったせいもあるのだろうか。
駐車場、ほぼ満車。
わずかに・・・まだ2台分ほど空いていたのは幸運だった。
<危なかった・・・間一髪・・・!
近隣の他店を偵察しているあいだに、もう少しで、満車ノックアウトをくらうところだった・・・!>
私が車を停めて、店に入るまでにも、
他のお客さんの車が続々とやってきて、
当然、駐車場は満車と化し、"待機客"、もとい、"待機カー"まで出始める状況。
<この客入り・・・かなりの戦闘力が予想される・・・!>
出汁を出汁で洗うような闘いが、
幕を開けようとしていた・・・。
(後編へ続く・・・!)
『後編を読む』