『第16話を読む』
雛のつるし飾りを見学後、2日目の宿へ。
『稲取東海ホテル 湯苑(ゆえん)』
<湯苑か…洒落た名前だなぁ…!どうしてこう付けたのか…名の"ゆえん"を訊いてみたいところだ…!>
だが訊いたところで、こう返されるのは目に見えている。
「それだけは、ゆえん!」
入館っ!
広いロビー。私の身長の倍ぐらいある大きな窓の向こう側に、ディープブルーの太平洋が広がっている。
「すごい!海が見える!」
私が産まれたてのチワワみたいな目をして無邪気にはしゃぐと、オカンは「ホンマやねー」とやる気のない女子高生みたいな口調で言った。
オビ=ワンとオバ=アは無反応だった。
<冷めた大人たちめっ…!>
炸裂する!ウェルカムドリンク!
1日目の宿と同じく、チェックインするとウェルカムドリンクを振る舞ってくれた。ここでもやはりお茶。静岡茶。
<昨日の宿は抹茶だったけど…ここは緑茶…!なんだろう…お茶を飲んでいると…圧倒的茶畑…!って感じがする…!>
ロビーでお茶を飲んで、部屋へ。
部屋まで案内してくれたお姉さんが、お笑い芸人の"友近"に似ていた。
*入室*
「ちゃっ…海が見えるやかっ…!」
部屋は7階。眼下に広がる大海原にオバ=アは目を丸くした。
「水平線が綺麗に見えらぁ…」
とオビ=ワンも嬉しそうな顔をした。
<さっき1階のロビーからも海が見えたのに…!あのときアンタたち…はいはい!海!海!みたいな反応だったのに…!>
高さが違えば、爺婆の反応も違うもんだと思った。
「竜一!窓のはたで…ほたこえて海へ落ちなよ!」
とオバ=アが言った。「わりあい手すりが低いが…!」
(ほたこえる = ふざけて遊ぶ、の意)
「落ちるか…!」
私が苦笑して言うと、案内してくれた友近似のお姉さんが笑った。
「気を付けてくださいね…!海がキレイー言いながら、下を見ずにフラーッと窓のほうへ歩いて行かれる方、時々おられるんですけど、ここ7階ですからね…!」
「落ちたら死ぬねぇ…!」
オカンの一言に、お姉さんは満面の笑みを浮かべて言った。
「はいっ!おそらく助かりません☆」
あはは!と一同が笑うと、なおもお姉さんは続ける。
「海に落ちたらまだ助かる可能性あるんですけど…真下は道路になってますのでね…」
とても楽しげに話すお姉さん。
「道路…アスファルトなので…道路に落ちると…さすがに…」
<あぁ…そうか…道路に落ちると…さすがにねぇ…>
納得する私。
って…。
これなんの話やっ…!
いたって楽しい湯苑チェックインと相成った。
(第18話に続く!)
『第18話を読む』