「うぉー!ワシはボクサー!最強に強いボクサーだー!!」
この日、ボクサーはトレーニングを終え、香美市土佐山田町にある『豚太郎 宮の口店』に向かっていた。
「はっはっはっ!着いたぞ!ラーメンフリークで豚太郎フリークなワシも宮の口店の豚太郎に入るのは初めてだ!どのような豚太郎なのか楽しみじゃわい!はっはっはっ!」
着席して、メニューを眺めるボクサー。
「ワシは減量などというものはしたことがない。驚異的な新陳代謝でサウナにでも入ればガツガツ痩せられる。さあて今日は何を食べようかなっ!」
そのとき、ボクサーの目が点になる。
「なんだこれ!ビールを頼めば餃子とか唐揚げが一品無料になるって書いてあるぞっ!枝豆に鶏マヨまで…!?すげえ大盤振る舞いだな…」
未曽有の出血大サービス…!
「これには心惹かれるものがある。しかし昼間から飲むのもボクサーとしてどうかな…。でも飲みたい気もする…」ボクサー、熟考。「だがワシはボクサー!甘い誘惑に負けていてはダメだ!」
ビールへの未練を断ち切り注文する、ラーメン。そして来た。
「来たぜ…!味噌カツラーメンちゃん!」
ボクサーは、どこの豚太郎でも味噌カツラーメンを食べるのだった。「カツ」に「勝つ」をかけているのだった。
「今日も味噌カツラーメンを食べて、試合に勝つ……!!」
通常、一千カロリークラスの味噌カツラーメンをボクサーが食べるなどあり得ない話。しかしこのボクサーに限っては関係なかった。
<宮の口店のカツは一口カツタイプか…!一枚岩タイプもいいが、一口タイプには一口タイプの良さがあるよな!>ムシャムシャとラーメンを食べ、カツを食べるボクサー。<一枚岩がストレートパンチだとすると、一口カツはジャブ…!ジワジワ効いて来るんだよなぁこれが!>
<一口カツのほかにも、チャーシューが二枚、煮卵、メンマにモヤシにワカメにネギまで入れていただけるという大ボリューム!>
最強のボクサーもこれには恐縮。
「ありがてぇ……」
しかしボクサー。徐々に騒ぎ始める勝負師の血。
<そもそもラーメンを食べるってのは遊びじゃねぇんだ…!ラーメンと人との真剣勝負っ…!作っている人間も、食べている人間も……>
戦ってんだ……!!
ラーメンって魔物とよぉ…!!!
ドンブリと冷静に対峙し、麺を食べ終え、スープを飲み干す。
<はっ!はっ!はぁーっ!勝ったぞおー!今日も勝ったぞおー!>
勝利を確信したボクサー。
だが、これで終わらないのがラーメン。
席を立ち上がろうとした、そのとき。
<うわっ!もう一杯食べたくなってきた…!おかしい……!腹はもう満腹だったはず…!なのにっ……!>
明後日が試合なのに、いくらなんでも二杯は食べ過ぎだ…!二杯はいくらなんでも……!!!
メニューが目に飛び込んでくる。
「豚炒めラーメンだとっ…!豚炒めラーメンだとぉぉぉぉっっ…!!!」
豚炒めラーメンは次第にボクサーの心を侵食していく。
<豚炒めラーメンなんて、あんまり聞いたことがない名前のラーメンだな。豚炒めってのは豚が炒まってるってことか!?>
歌い狂い、踊り狂い始めるボクサー。
「豚炒めったら、豚炒めっ!豚炒めったら、豚炒めっ!」
すんちゃか、すんちゃか、すんちゃか!
結局、豚炒めラーメンも食べてしまう。
「豚炒めったら、豚炒めっ!豚炒めったら、豚炒めっ!」
すんちゃか、すんちゃか、すんちゃか!
あらよっ!あらよっ!あらよっ!
最強のボクサーも豚太郎には勝てなかった。