高知の片田舎にヤンキーがいた。
もっとも本人は、「俺、市内に住んでっから!田舎じゃねぇし!高知の都会の高知市だし!」などと思っているが、江戸っ子辺りから見たら、高知県自体が全体的に田舎なのだ。たぶん。
その日、ヤンキーは中学の昼休みに堂々と学校を抜けだして、セルフうどん店『たも屋』にうどんを食べに来ていた。
「今日の昼飯は何うどんにすっぺかな!」
そそくさと『かけ』を注文し、トッピングコーナーに達したときだった。
「ちく天は、ねぇずらか……って、おい!何だべこれは…!」ヤンキーは見たこともないトッピングを取ると、うどんの上に載せた。「な…何事も挑戦だ…!食べてみっか…。舎弟たちと遊ぶとき、話のタネになるかもしれねぇし…」
それは串に刺さったシシトウの天ぷら。しかしヤンキーはシシトウを知らない。
「おおっ!このちんまいピーマン、なかなかうめぇな。うどんの出汁に青臭さが溶け出して…たまんねぇ…!!」
出汁とシシトウが混じり合う。
「昼休みの度にうどんさ食べに来てっけど、コイツぁ新しいな。よく食べる"ちく天"パティーンとはまた違った世界が広がるぜ…!!」
カウンターにて、黙々とうどんを食べるヤンキー。隣にコワモテの中年男性がやってきた。内心ビビるヤンキー。
「おい、わけ(若)ぇの。シシトウ天とは、やるな」
「ええっ!?そうっスか?」
「シシトウは、ナス科だ。知ってたか?」
「いや、知らなかったっス。つーか、これ、シシトウっていうんスか」
「そうだ。ナスやピーマンと同じ種類で、トマトもナス科なんだぞ」
「マジっスか…!」
「よしっ!いまから俺と一緒にペルーへ行くぞ」
「およよ!ペルーっスか!」
ペルーに向かったヤンキーとコワモテ。その機中…。
「おい、見ろ。あれが有名なナスカの地上絵だ」
「パネェっスね…!窓から地上絵が一望できるっスね!」
窓際の席に座り、地上絵に見入るヤンキーの膝を、触り始めるコワモテ。
「ちょっ…!何するんスか…!」
「フフフ……俺にはそういう性癖があるのだよ」
言葉を失うヤンキーに、コワモテは不敵な笑みを浮かべる。
「帰りのチケットは取っていない。これからずっとキミと俺は、ペルーでとても長いハネムーンを過ごすんだ。ふぁーっ!ふぁっ!ふぁっ!」
コワモテはヤンキーを連れてナスカの地上絵に降り立つと、ポケットから何かを取り出した。
「ここに日本から持って来たシシトウのタネがある。これを撒いて地上絵をシシトウ畑に変えよう。そしてシシトウ天を載せたうどんの店を出そう。もちろん二人でだ」
男と男の愛の物語が、ナスカの地上絵の上で始まろうとしていた。