うどん源水 はりまや

薄い雲を透して光が射している。
私とエンドウは、高知市本町の電車通り沿いを歩いていた。
『イオンモール高知』を出たあと、この近くのコインパーキングまでは車で来た。

私の自慢の“高級な軽自動車”に初めて乗ったエンドウは、「組織ではまず使わないタイプの車だ。馬力に問題がある。しかし乗り心地は悪くないな。悲鳴のようなエンジン音も素敵だ・・・」と評してくれた。

「エンドウさんにもわかるの?この悲鳴のよさが・・・!」
「あぁ、もちろんわかるさ」エンドウは薄い唇を真横に伸ばして微笑む。「腐りかけの肉が旨く、壊れかけのRADIOが愛されるように、非力なくたばりかけのエンジンは、非力かつ、くたばりかけない限り出せない哀愁のサウンドを奏でる。このエンジン音は年老いた戦士でないと出せないものだ」

エンドウという男は、悪い奴ではなさそうだ。
私は助手席に座るエンドウを横目に見ながら、そう考え始めていた。

「僕が言ってた店はここだけど・・・」
電車通りの歩道を歩いて、一軒の店の前で立ち止まった。

はりやま源水4

「源水うどん・・・か・・・」
エンドウは店先の大きな赤い看板に視線を向けたまま言った。「セルフ方式だと言ったな?」

「自分も入ったことはないんだけど・・・」
と私は答えた。「インターネットで調べた限りではセルフらしいね」

『イオンモール高知』のフードコートにて話す中で、彼はこう切り出してきた。
「昼食がまだならうどん店に行かないか。うどん店ならば何処でも構わないが、セルフ店が理想ではある」

「組織はうどん店の情報を欲していて、その中でもいま最も必要としているのがセルフうどん店の情報なんだ」エンドウは看板に向けていた視線をコチラに移して微笑した。「早速、入店してくれ。ワタシはキミの後ろで見学させてもらう」

「エンドウさんは食べないの?」
「ワタシは食べない。客観的な視点で見なければ、客観的なデータが得られない」

『源水はりまや』の出入口の戸を潜って店内に入る。
左側にセルフレーンが伸びているのが見えた。

この店舗は初めてだが、南国の源水には何度も足を運んでいる。
セルフシステムは南国とおそらく同じものだろうと踏んで、レーンの端で黒い盆を取り、注文する。

「あったかいぶっかけの中!」
すると店のオバチャンがカウンターの向こう側で困った表情を浮かべる。
「小やったらすぐできるがやけど・・・」

「いや・・・中じゃないと・・・」
と私が言いかけたときオバチャンは苦笑した。
「足りんよねぇ・・・」

どうやら茹で置きの麺が1玉分しか無いようで、中だと少し時間がかかると言う。
小だと本当に足りないので、私は壁際のカウンター席に座って待つことにした。

「大や特大じゃなくてよかったのか?」
メニューを見たのだろう。隣の席に腰を下ろしながらエンドウがそう訊いてきた。「組織が調べたところ、キミはいつも牛が食うほどの量を食べているらしいが・・・」

「一昨日、呑みすぎて・・・それからずっと体調が悪いの・・・!」
私が小声で言うとエンドウは、そうかそうかと苦笑した。

普段着の私。
スーツ姿のエンドウ。
二人でしばらく待っていると、店のオバチャンが駆け寄ってきた。

はりやま源水0

「お待たせぇー!」
そう言ってオバチャンは私の前にある盆に、白い器と赤い器を置き去った。

はりやま源水1

「その黒い液体はなんだ?」
エンドウが私に訊く。
「麺にかけるんだよ。だから”ぶっかけ”うどん」

「なるほど・・・」
エンドウは納得した表情で頷いている。

はりやま源水2

私は取ってきた唐揚げを載せ、ぶっかけ出汁をかけて麺を軽く混ぜる。
そして麺とぶっかけ出汁が馴染んできた頃合を見計らって食べる。
甘めの出汁だった。

「うどん、食べに行ったりしないの?」
私が質問するとエンドウは腕を組んで真剣な目つきをした。
「外食自体あまりしない。いつも組織の食堂で済ませてしまうからな」

「食堂・・・?秘密の組織内に食堂があるの?」
「ある。しかも安い。ワタシがよく食べる納豆定食は300円だ」
「えぇっ!?」私は目を大きく開いてエンドウの横顔を見た。「たしかに安いね!300円は良心的だ・・・」

はりやま源水3

返却口に食器を返して退出する。
「ありがとうございました!お待たせしてごめんねぇー!」と奥からオバチャンの声がする。
私は、いえいえ、と笑ってペコペコお辞儀して退出する。

外に出ると、エンドウが待っていた。
手帳に何やらメモをしている。

「データは取れた?」
エンドウはメモを取りながら首を何度か縦に動かした。「それじゃ約束の釜揚げの食べ方を教えてもらいたいんだけど・・・」

私がそう言うと、エンドウは視線をコチラに向けた。

「たった1店じゃダメだ。まだ数店は行ってもらう必要がある。それから・・・」
エンドウは大きく息を吐き、冷静な口調で続けた。「釜揚げの食べ方がどうとかいう話は、しばらくしないでくれ。同じことを何度も言われて、いい気がする人はいない」

たしかにそうだろうな、と私は理解した。
「わかったよ。しばらく釜揚げの件については何も言わない」

エンドウは手帳を背広の内ポケットに仕舞うと、満足そうに微笑んだ。

はりやま源水4

◆ 源水はりまや
(高知県高知市本町4丁目1−3)
営業時間/
平日、土曜、祝日・11:00~19:30
日曜・11:00~16:00
定休日/無
営業形態/セルフ
駐車場/無

↓ ノンフィクション飽きたので、しばらく飲食店の記事のみ、事実を元にしたファンタジーテイストにします・・・。笑
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