『ラーメン家 ひろき』
勢いを増して、
加速する、降雨。
店裏にある駐車場に車を停め、
東脇の狭い隙間を抜けて、店内に走りこむ。
少し薄暗く写る印象に、以前から、
<なんだか入り辛いな・・・>とも思っていたのだけれど、
明るい店内は、入ってみると意外と落ち着ける。
座ると、おばちゃんが水を持ってきてくれた。
奥には、店主らしき男性の姿がある。
店主の方が、だいぶ若く見える。
二人は親子なのだろうか。
ラーメンは、
醤油、味噌、塩の三種。
<味噌が良いか・・・!
いや・・・醤油でも・・・!>
メニューを見るや、
いつものように、竜一を襲い始める迷いの念。
しかし、竜一はそれを跳ね返す・・・!
家を出る前から決めてきた俺に・・・!
死角はねぇんだよっ・・・!
「すいません・・・!
塩バターラーメン・・・!」
どもらない・・・!
竜一・・・!
寸分も・・・!
どもらないっ・・・!
迷いもしない・・・どもりもしない・・・!
つまり・・・今の俺は・・・無敵・・・!
スターを得たマリオのようなもの・・・!
知っているかい・・・!?
スターがあれば・・・触れるだけで飛び上がっていたマリオが・・・
逆に・・・触れるだけで飛び上がらせられることをっ・・・!
そんな竜一に、
おばちゃん、普通。
「はい。塩バターラーメンね」
すげぇ・・・!
おばちゃん・・・並大抵じゃねぇ・・・!
無敵モードに入った俺に対して・・・
至って・・・平常心・・・!
さすがは・・・百戦錬磨・・・!
ここは俺も大人しく待つぜ・・・!
他の客はいない店内で、
塩バターラーメンが出来上がるのを待つ竜一。
手持無沙汰から、
無駄に携帯をいじる。
入っているハズの無い新着メールを問い合わせてみたり、
どうでも良いことを検索してみたり・・・。
この行為に何の意味も無いことは、
自分が一番よく分かっているのだけれど、
ジッとして居られない。
店の隅の上方に置かれたテレビ。
音声に、外から聞こえる雨音がわずかに混じって聞こえる。
<雨・・・よく降るな・・・!>
前日までの、晴天が嘘のように、
雨は止まる気配もなく降り注いでいる。
暫くすると、
おばちゃんが両手でドンブリを持って、
ソロリソロリと歩み寄って来た。
(エピソード3へ続く)
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