生姜の定植開始予定を数日後に控えた、3月下旬。
竜一の心は揺れていた。
「これからしばらく・・・俺はうどんどころじゃなくなる・・・!
今・・・うどんを体内に取り込んでおかないと・・・!
冗談抜きに・・・畑で卒倒・・・!倒れる・・・!」
「この局面でのうどんは・・・いわば鎮静剤のようなもの・・・!
とりあえず食っておけば・・・!
あとは・・・どん兵衛やごんぶとで何とか凌ぎ切れるはず・・・!」
「しかし・・・どこに行くかだ・・・!」
「長ければ一ヶ月に及ぶ生姜の定植・・・そんな長期間・・・!
生半可なアルデンテの装甲では持ち堪えられない・・・!」
「纏わば最強クラス・・・!」
「長期間の麺欠乏を強いられることが確実な今・・・!
俺に必要なのは・・・顎を砕き散らすような・・・!
強烈で獰猛な・・・メガトン級のアルデンテ・・・!!」
"竜一・・・!
脳内から搾り出す・・・!"
"圧倒的・・・うどん屋を・・・!"
あぁっ・・・!
あぁっ・・・!
ぐぼっ・・・!
出て・・・くる・・・!
出て・・・!くる・・・!
俺の脳ミソの奥底から・・・!
湧き出てくる・・・!!!!!
しゃ・・・しゃきゃ・・・うぇ・・・!
しゃ・・・くぁ・・・うぇ・・・!
"思慮の果てに導き出した・・・!
ひとつの答え・・・!"
そのうどん屋・・・!
手打ちにあらず・・・!
「本手打ちうどん」であるっ・・・!
来たっ・・・!
圧倒的・・・さかえ・・・!
(本手打ち讃岐うどん さかえ)
この日も・・・!
当然・・・開店勝負・・・!
長年の経験から到着時間を割り出し・・・!
11時の開店時刻から5分以内には店内に滑り込む・・・!
だが・・・!
<ぐはっ・・・さすがは高知中東部の雄・・・!
既に席は7割ほど埋まってやがる・・・!>
<しかし・・・残りの3割・・・!
それこそが・・・千載一遇の空席・・・!
決まった・・・!俺の作戦勝ち・・・!>
さかえのオーダーは五択。
メニューは、『かけ、しょうゆ、ぶっかけ、かま玉、かまあげ』のみ。
通常、竜一の選択肢はさらに少なく、
『しょうゆ or かま玉』の二択。
『さかえ』においては、その2つが、
自分のストライクゾーンのド真ん中を射抜く"玉"なのだ。
しかし・・・この時・・・!
竜一は・・・その両者に"否"を呈す・・・!
<思えば・・・俺はさかえで・・・
『しょうゆ』や『かま玉』ばかり食べてきた・・・!
その所為か・・・なんだかいまいち・・・!
ぶっかけ出汁の味・・・それが思い出せねぇ・・・!>
<食べたことはあるはずだけれど・・・!
ぶっかけ出汁の味が・・・舌の記憶からかき消されてやがる・・・!>
<麺至上主義から来る・・・偏ったオーダー・・・!
愚考・・・浅はかな脳めっ・・・!>
<呼び覚ませ・・・!
さかえ・・・本手打ち・・・!>
ぶっかけ出汁の本質をっ・・・!
"歩み寄って来た女性の店員さんに・・・!
注文・・・!"
「ぶ・・・ぶっかけの大と・・・ちく天・・・!」
"すると・・・店員さん・・・!
歌うように復唱・・・!"
「ぶっかけの大とぉぉぉ~♪
ちく天ですねぇぇぇぇぇ~♪」
圧倒的・・・語尾・・・!
アゲアゲ・・・!
とにかく・・・超絶的に・・・!
楽しそう・・・!!
最近入った店員さんなのか知らんけど・・・イイっ・・・!
これこそさかえの新たなる個性になりうる至宝の存在・・・!
テレビから流れる選抜高校野球。
なんだかコチラまで楽しい気分になって、待つ。
出来上がるその時を・・・!
(後編へ続く)
後編はコチラっ・・・!
『本手打ち讃岐うどんさかえ ぶっかけの章 後編/愉悦のアルデンテ』