あのころ、まだ私はハタチになるかならないかだった。
あのころ、まだ私はうどんに溺れていなかった。
あのころ、まだ私は生姜農家ではなかった。
おそらくは、十年ぶりの再会だった。
鮭が川を上るように、
再び私は「鹿水庵」に帰ってきた。
けれども、私はそこで産卵しない。
『うどん 鹿水庵(かすいあん)』
<こんな感じのお店だったか・・・!>
店内の記憶は、完全に消失していた。
うどんの記憶についても同じで、何を食べたのか、
どんな味だったのか、もうまったく思い出せない。
何度か来た記憶だけが、
溶けて消えてしまいそうなほど薄っすらと、
記憶の海を漂っている。
夜だった。
重いのが欲しかった。
軽いのじゃダメ・・・!
寝る前に・・・お腹が空いてたら・・・寝られないもんっ・・・!
<メニューに3玉表記はない・・・あるのは大盛2玉のみ・・・!
2玉では俺の宇宙は満たせない・・・!ならば上だ・・・!
上に・・・上に盛れっ・・・!勝負どころは麺の上っ・・・!>
重量級の攻め手で・・・!
麺戦を駆け抜けろっ・・・!
『かつカレーうどん(大盛)』
<一口カツじゃない・・・!
本気のカツっ・・・正真正銘のトンカツ・・・!>
敬礼っ・・・!
<ありがたいっ・・・!
あぁっ・・・!ありがたいっ・・・!>
麺が重い・・・!
カツが・・・漬物石みたいに乗ってんだっ・・・!
重さで、お手手をプルプル震わせながら、割り箸で麺を掴む。
<いくら重くても・・・俺は絶対にカツを退かさない・・・!
できるだけ綺麗なままの姿の・・・コイツを見続けていたいからっ・・・!>
注文時に、「出汁有り」と「出汁無し」
どちらにするか訊かれた。
私は「出汁無し」を選択していた。
<出汁があれば浮力を得られただろうが・・・無いから余計に重いっ・・・!
カレーの中でうどんは沈むんだ・・・!これは勉強になるっ・・・!>
鹿水庵の重量級、
とどまることを知らず。
何食わぬ顔して、
店のお姉さんが置いていったものが、またメガトン。
『かきあげうどん(大盛)』
<おおおっ・・・美しい・・・!
男子興奮のビジュアルっ・・・!>
どや顔で鎮座する・・・!
圧倒的ド迫力っ・・・!
<カツに続いて・・・これもズドーンかっ・・・!
ありがたくて・・・ありがたくて・・・!うぅっ・・・!
鹿水庵・・・普通のうどん屋のイメージだったけど・・・意外と攻撃的・・・!>
十年ぶりの再会は、
新たなる迫力との出逢いだった。
◆ うどん 鹿水庵(かすいあん)
(高知県高知市高そね88-5)
営業時間/11時~15時、17時~24時
定休日/無
営業形態/一般店
駐車場/25台(店舗前のほか向かって右側にも有)
(かつカレーうどん840円、かきあげうどん525円、大盛105円増)
『鹿水庵』の場所はココ・・・!