サクサクの衣。プリプリの身。
一瞬の苦味のあと、甘さが口いっぱいに広がる。
<衣が旨い!油が旨い!牡蠣が旨い!>
2月の昼。
私は高知市帯屋町の老舗牡蠣料理店「かき吉」にいた。
<たぶん"牡蠣料理店"というのは、高知県内ではココだけだろうな・・・>
私は牡蠣が好きだ。かなり好きだ。
ロミオがジュリエットを想うほどに好きだ。
しかし家ではあまり食べられない。オバ=アが牡蠣嫌いだからだ。
<やったー!今日は牡蠣が食べれるぞ・・・!>
私は嬉々として開けた。
大正11年(1922年)の創業だという「かき吉」の戸を。
店内に足を踏み入れる。
店のオバチャンが気付いて声をかけてくれる。「いらっしゃいませ!」
真ん中に通路があって、左側がテーブル席、右側が座敷席になっている。
私は左側のテーブル席に座った。
それからメニューを一読した。
たくさんのメニューがあったけれど、私はほとんど何も迷わなかった。
<"かきフライ定食"・・・これしかない>
いったいどういうわけだろう。
とにかく私の目には「かきフライ」しか入らなかった。
「かかかかかか・・・!」
と私は滑らかな口調で店のオバチャンに注文した。
「かか・・・かきフライ定食をッ・・・!」
オバチャンは私の注文を聞くと、厨房のほうへ歩いていった。
老舗の落ち着いた雰囲気に浸りながら、かきフライ定食を待つ。
テレビの音声が店内に流れている。
それから、やがてその音声にリズムを刻むように、軽やかな音色が加わってくる。
<かきフライを揚げる音だ!>
と私はすぐさま確信した。<美味しそうな音・・・!>
しばらくすると、その音は止んだ。
オバチャンが歩いてきて、私の目の前に盆を置いた。
待望の牡蠣!牡蠣ッ・・・!
食べれるぞ!牡蠣が食べれるぞッ!
<熱い内に・・・!>
と私は思った。<初手から牡蠣をいただこう!>
割り箸で牡蠣をつまむ。
つまんだ割り箸を通して、私の指先や腕に、衣の感触が伝わってくる。
<さっきの揚げる音といい、この感触といい、
この牡蠣・・・食べる前から・・・すでに美味しい・・・!>
丸ごと1個、口へ放り込む。
放り込んで噛む。
噛むと、どんなに高名な音楽家でも出せないような、
圧倒的ミュージックが口の中で演奏される。
NO KAKI NO LIFE.
<もう牡蠣がいなきゃ生きていけない!>
と私は思った。<うんまい、とろけそう、俺が>
牡蠣を食べて、ごはんを食べる。
体の中に、私の中に、牡蠣という幸せが満ちていく。
ああ・・・牡蠣よ・・・。
アナタはどうしてこんなに美味しいの・・・。
◆ かき吉
(高知県高知市帯屋町1丁目8―16)
営業時間/11時~21時(平日のみ・14時~16時まで休憩時間)
定休日/月曜日(祝祭日の場合は翌火曜日が休み)
駐車場/無
「メニュー」
「かき吉」の場所はココ!