『前の話を読む』
ガチャガチャと戸を開ける。
数年ぶりにくぐる『天下一品』、通称『天一』の暖簾だった(暖簾あったっけ?)。
中に入ると、店のお兄さんやお姉さんの威勢の良い声が響いた。
声の大きさに、小心者の私はいささかビビッたが、必死に"偉そうさ"を装い、堂々とした態度で指定された席に腰を下ろした。
「こっさりの…」
と私は注文した。「天津定食で」
『天津定食』とは、指定したラーメンに天津飯が付くという、炭水化物バンザイセットのことだ。
<大丈夫かな……>
注文して待っているあいだ、私は不安に駆られていた。
「『天下一品』の『こってり』を調査してきてくれ」
黒ずくめの男に、そう指示されて来たはいいものの、私は天一の『こってり』が苦手なのだ。
数年前、ここ『天下一品 高知インター店』がオープンした当初に初めて『こってり』を食べたが、ネットリした独特のスープが合わなかった。
「○名に一人の割合で苦手な方も…」みたいな記述が天一のどこかにあった気がするが、私はまさに、その「○名に一人」に該当していた。
以来、天一に来ることさえなかった。
そのことを黒ずくめの男に伝えると、「それならば、『こっさり』でも構わない」と彼は言った。
『こっさり』は、天一のスタンダードである『こってり』と、『あっさり』という、その名の通りあっさりしたスープのラーメンの中間に位置するラーメンだ。
<こ…こっさりなら大丈夫…かな……>
果たして食べれるのか。
通常の飲食店では、なかなか味わうことのできない感覚に襲われる。
そんな中、きた。こっさり。
きたっ…!
こっさり…!!
クリーム色の悪魔めっ…!
数年前に経験した『こってり』と違い、麺にスープが纏わり付いてくる感じはないが、それでも湯気と共にほとばしる攻撃力。
イケるのか。
イケないのか。
またしても跳ね返されるのか。
緊迫の局面で食べる。この野郎!
ああっ…………!
ああっ…!大丈夫だ…!
俺、大丈夫だ……!!
「美味しい…!」
おいしおすっ…!
<『こってり』はダメでも、『こっさり』なら大丈夫!いや……今なら…イケるんじゃないか…!『こってり』さえも……!!!>
俺はイケる…!
こっさり、イケる…!
天津飯も…食べてやるっ…!
飲んだ……!
飲んだ……!
飲み干した……!
こっさり………!
飲みおおしたっ………!
イケる!イケる!
こってりも、たぶんイケる!
行こう!行こう!
こってり行こう!
天一だって………!
待ってんだよっ……!!!
家に帰ってブランに感想を報告した。
そして訊いてみた。
「黒ずくめの男は、「『こっさり』で構わない」と言った。でも本来は『こってり』の情報が欲しいんだろ?」
「そうみたいだね」
と、ブランは言った。
「だったら、明日…『こってり』食べてくるよ」
ブランは円らな瞳を丸くした。
「『こってり』苦手なんじゃないの?」
「今日『こっさり』食べて、イケる気がしたんだ」
私の中で、アルデンテ魂が燃えていた。
『次の話を読む』
◆ 天下一品 高知インター店
(高知県高知市高そね74-1)
営業時間/11:00~翌2:00
定休日/無
駐車場/有