高知市神田の細い路地を、高級な軽自動車で突っ走っていた。
「そろそろ着くよ」
私はアクセルをゴンゴン踏み込みながら、助手席に乗るブランに言った。
「こんなところに、うどん屋があるんだねぇ」
そう言うブランは、なんだか楽しそうに見えた。
「はい、到着!」
辿り着いた『セルフ さぬきや』の駐車場には、たくさんの車が停まっていた。
「じゃ、早く行って早く食べてこなきゃ」
と言って、ブランは助手席のドアを開けた。
そのときには、ブランは若い男性の姿になっていた。
今の彼は、誰が見ても人間だ。
「今回からブランも調査に同行させる」
と、黒ずくめの男から電話がかかってきたのは、昨夜のことだった。
「犬を飲食店に連れて行くことなんてできないよ」
私が言うと、黒ずくめの男は微笑した。
「ブランが犬に見えなければ大丈夫だろう」
「え…?言っていることの意味がわからない」
「ブランを人間の姿にすれば、なんの問題もないと言っているんだ」
そう言う黒ずくめの男は、冗談を言っているような口調ではなかった。
「我が組織の総帥は、ブランを完全な球体にできると仰っているくらいだ。ブランを人間の姿に変えることなど容易にできる」
黒ずくめの男はさらに続けた。
「ブランが人間モードにスイッチ!、と思った瞬間から人間になれるように、すでにブランにはヤヴァイ薬を飲ませてある」
「ええっ!」
衝撃の展開に私は仰天した。
「但し、ブランが人間の姿になっていられるのは、1時間だけだ。その間に飲食店から出て来なければならない。でも余裕だろう?」
「まぁ、1時間もあれば…」
「では次からブランと共に調査するんだ」
と、黒ずくめの男は言った。
「元はと言えば、君の調査報告の内容が簡易的でイマイチだったから、総帥の判断でこうなったんだ。ブランと仲良くやるんだぞ」
電話はガチャリと切れた。
「入るよー!」
『さぬきや』の出入口に立ったブランは駐車場のほうを振り向いて言った。
今の彼は、誰が見ても人間だ。
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