どんこに、卒倒。
高知を代表する名店、
衝撃的な料理に出会える。
サバ寿司、
愛好家に告ぐ。
酒亭どんこの、
サバ寿司を食べずして、
サバ寿司は語れない。
「どんこ行ったことある?」
「ない」
「じゃあ一回行ってみたほうがいいね」
「おいしいの?」
「どんこは、ええ店で」
そう言ったのは「どんこ」からそう遠くない距離で、居酒屋を経営する知人だった。
同業者であり、
ライバルでもあるはずの、
居酒屋がすすめる居酒屋が、
高知市はりまや町にある。
酒亭どんこは、はりまや橋から北へ150m、徒歩1分の場所にある
夕暮れの、
高知市繁華街。
はりまや橋から、
電車通りを北に歩いて数分。
店先にたどり着いた。
小さな立て看板に、
「酒亭 どんこ」と書いてある。
コミュ障にとって、
知らない店に入る緊張感は半端ない。
私は妻に言った。
「緊張で失禁しそう」
妻は眉尻を上げて、
微笑んだ。
してみいや!
Twitterに書いちゃおき!
立て看板の横には、
通路が伸びている。
異世界に続くトンネルに見えた。
「千と千尋の神隠しの、
トンネルみたいや」
私がそう言うと、
妻は両腕を広げて笑った。
千と千尋やったら、
アタシら料理食べたあと、
ブタにされるね!
「そのときは千みたいに言うわ」
ここで、
働かせてください!
足を踏み入れると、
そこは……
もう、さっきまでいた、
高知市繁華街の風景ではない。
どんこの世界。
暗闇の中で、
電灯がぼんやりと建物を照らしている。
息を呑む。
「老舗の旅館みたい…」
通路の向こう側からは、
想像できない佇まい。
店内は和風で、
落ち着いた雰囲気。
カウンター席に腰をおろした。
酒亭どんこのメニュー
※メニューはいずれも2020年12月時点のものです。
どんこのメニューに、
価格の記載はない。
「大丈夫かな。めっちゃ高かったらイヤやな」
「払えんかったら、"ここで働きます!"言うたらえいやん」
でも実際にはあまり心配していなかった。
最終的におかしな会計になるのなら、評判の店であるはずがない。
酒亭どんこ、名店の料理が炸裂する
初手は、焼酎ロック。
お通しは、イタドリ。
イタドリは高知で食べ継がれる、春の山菜である。
どんこを訪れた、
このときは12月だったが……
「イタドリは漬けちょったら、いつでも食べれるきね」
カウンターの一段高いところに、
棒状の料理が見える。
昆布に包まれた「サバ寿司」だった。
部類のサバ好きである私と妻は目を見合わせ、無言で言葉を通わせた。
<アイツは只者じゃない>
<あれ絶対おいしいよね>
「注文いいですか?」
と妻が手を挙げた。
「はい、どうぞ」
カウンターの向こう側にいたお店のご主人は、視線を手元からこちらに移した。
妻はメニューの文字列を、
指でなぞりながら言う。
「ブリの刺身とサバ寿司とぉ…」
「サバ寿司は…」
とご主人は言葉を切った。
「予約されてるかたの分しかないがですよ…」
「ああ、そうですか…」
残念そうな表情を浮かべる妻に、ご主人が言う。
「もし残ったら、お取り置きするようにしますね」
「ホントですか!よろしくお願いします!」
私はやり取りを聞きながら、
焼酎をグビリと飲んだ。
<サバ寿司は、たぶん食べられないだろうな…>
天然ブリ刺身
「"ぬた"は、たっぷりつけて食べてくださいね。足らんかったら、おかわりもありますから」
とご主人が微笑む。
「ぬた」とは、高知の伝統的なタレのことで、葉ニンニクや酢や味噌を使って作られる。
どんこの"ぬた"も、ご主人の手作りだという。
「もし、ぬたが苦手だったらどうぞ」
と醤油もつけてくれた。
優しいお心遣い!
<ぬたが苦手な妻も、きっと喜びます!>
精巧な建築みたいに、
組まれたブリ。
包丁の入れ方から、
すべて計算されているのか。
とにかく美しい。
圧倒的職人技。
サシが入ったブリ。
「牛肉みたいや」
「牛肉ながじゃない?」
えっ…!?
「…って、おまっ!ぬた食べゆうやん!」
ニンニクが苦手で、
いつもは"ぬた"を一切口にしない妻が、
なんとブリにぬたを、
ベチョベチョにつけて食べている。
妻は目を見開いて言う。
「このぬた、おいしい!」
「普通のぬたより、まだニンニクが効いちゅう感じがするのに、よう食べれたねぇ」
「ニンニクはたしかに効いちゅう。効いちゅうけんど…」
どんこのぬたは、
違うらしい。
「ニンニクが弾いて辛かったりしたらイヤやけんど、全然弾かんき食べれる」
濃厚だけど、辛くない。
そう言う妻の鼻息は荒かった。
どんこは人の好みを、
乗り越えてくる。
注文していた料理が、次々に運ばれて来る。
焼鳥
ミョウガ豚肉巻き
土佐あかうし炙り
山盛りの薬味、
赤い宝石はその中に。
ゲソ唐揚げ
謎の料理「あつまん」とは!?
ふとメニューに目をやると、
謎の文字列が記載されていた。
<あんまん…?いや、よく見ると"あつまん"か>
謎である。
ご主人に恐る恐る聞いてみた。
「あ、あの、"あつまん"ってなんですか?」
「あつまんは、サトイモを団子にして揚げて、餡をかけたものです」
そんな感じの説明をしてくれた。
なるほど。
想像できない。
問)わからないものは?
答)食べてみる。
数分後
これが、
あつまん!
立ち昇る湯気とともに、
キノコの出汁の、
よい香りが漂う。
中央の巨岩が、
サトイモの団子!
餡には、
大量のシメジが浮かんでいる。
団子の中には、エビ。
あっつあつ、
ほっくほく。
サトイモの食感。
プリップリのエビ。
とっととろの餡。
未曾有の旨味!
圧倒的出汁感が、
俺を襲う!
初めて食べる「あつまん」に感銘を受けていた、そのときご主人が口を開く。
サバ寿司なんですが、
2切れだけあまりそうなので、
お出ししますね。
そんな幸運あるっ!?
諦めていた糸は、
切れちゃいなかった。
これが、酒亭どんこの「サバ寿司」だ!
そのサバ寿司は、
芸術だった。
美しすぎて、
言葉が出ない。
金色に輝く、
黄金のサバ寿司。
世の中には、
綺麗すぎて、
食べるのがもったいない料理
ってのがある。
でも、
どんこのサバ寿司は、
おいしそうで、
おいしそうで、
食べるのがもったいないなんて、
1ミリも思わなかった。
むしろ食べないほうが、
もったいない。
いますぐ食べたい。
こんな料理、
これほどの逸品。
そうそう、
お目にかかれない!
ほのかな甘さ。
凝縮したサバの旨味。
ああっ……
生まれ変わったら、
どんこで締められる、
サバになりたい。
あなたも、
酒亭どんこで、
実際に食べてみてください。
異世界のサバ寿司に、
出会えます。
その際は予約時に、
「サバ寿司希望」
と伝えるのをお忘れなく!
編集後記
お会計は、妻と二人で食べて飲んで12,000円くらいでした。
私が控えめながらもバカバカ飲んだことや(笑)、内容を鑑みると決して高いお値段ではないはず。
酒亭どんこの店舗情報
店名 | 酒亭どんこ |
所在地 | 〒780-0822 高知県高知市はりまや町2丁目1-21(地図) |
営業時間 | 【月火金土】ランチ11:30~売切まで 【木~火】夜17:30~23:00(料理のLO.22:00) ※新型コロナウイルスの影響により、営業時間等は変更される場合があります。ご注意ください。 |
定休日 | 水曜日 |
駐車場 | 無 |
店内 | ■カウンター席/有 ■テーブル席/有 ■座敷/有 |
予約電話番号 | 088-875-2424 |
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