とある一月の日。
私はオビ=ワンと、軽トラに乗って、
高知県東部のある場所へ、牛糞堆肥を仕入れに行っていた。
普段は通ることが無い、
香南市香我美町の県道。
特に会話も無く、
のらりくらりと走っていると、見えた。
道沿いに揺らめく、
『手打うどん』と書かれたのぼり。
あれっ・・・!?
こんなところにうどん屋さんあったっけ・・・!?
瞬間。
跳ね上がる、心拍数。
牛糞どころじゃねぇ・・・!
ちょっと下見して行きてぇ・・・!
そう思ったけれど、
軽トラを運転しているのは、オビ=ワン。
オビ=ワンは、私がブログを書いていることも知らなければ、
私がうどんに狂っていることも、メイドだということも知らない。
「軽トラを止めてくれ・・・!」
それが言えない。
走る軽トラのフロントガラス越しに、
のぼりは見えたのだけれど、
肝心の店は確認できなかった・・・。
後日、自分で車を運転して、
その店を下見に行った。
行ってみると、喫茶店のような店だった。
というよりも、喫茶店だった。
店の前の看板には、『ショパン』と書かれていた。
そしてたしかに、『手打ちうどん』とも書かれていた。
もうワクワクが、止まらない。
「絶対、近い内に食べに来るんだからっ・・・!」
下見から帰る車中で、そう心に誓ったのだけれど、
野良仕事が忙しい日々が続き、
実際に行ったのは、それから二週間ほどが経過した頃だった。
『ショパン』
周囲を林に囲まれ、
ヒッソリと佇む未開の店。
独特の趣と雰囲気に、
「なんだか少し入り辛いな・・・!」とも感じたけれど、
目の前にぶら下げられているのは、『うどん』という名のエサ。
このエサの前では、どんな竜一も無力。
勇気、振り絞って、入る。
「いらっしゃい!」
扉を開けると、天童よしみのようなおばちゃんの明るい声が響く。
レジの上には、ドラえもん。
張り詰めていた緊張、ドキドキ、収まった。
薄暗い店内。
外界とは時の流れが違っているかのような、
不思議な空気が、ゆったりと漂っていて、何故か落ち着く。
うどんの茹で置きは一切しておらず、
すべて注文を受けてから湯がいているということで、
待ち時間、長め。
しかし、店内の絵や置物を観察して、
独特の雰囲気に浸っているだけで、退屈しない。
こう言うと妙だけど、
近頃の私は、うどんを食べ歩く上で、
味をそこまで重視しなくなってきている。
何処の店も、プロが作っているうどんだけあって、
食べられないほど決定的に不味いうどんというのは滅多に無いし、
逆に言えば、何処の店にも、それぞれの美味しさがある。
だから、美味しい美味しくないよりも、
むしろ、各店の特徴の違い、個性の違いの方が重要で、
その違いを見るのが、本当に楽しい。
やがて、おばちゃんが運んできてくれた"それ"にも、
この店、ショパン独特の個性が詰まっていて、
私のワクワクは、最高潮。
『あったかぶっかけうどん(大盛)』
来たっ・・・!
これがショパン・・・!
未開の個性・・・!
麺の上に・・・!
鎮座・・・!
甘く煮た・・・シイタケ・・・!
細めの麺。
エッジ、鋭い。
鋭角に反り上がったエッジを見た瞬間、
何年前だったか・・・!当時、オープンしたばかりだった、
土佐山田の『まるしん』のうどんに初めて出逢った時の感覚が蘇った。
だが、その食感、
まるしんとは、まったく異なる。
固めで、表面と中心の弾力差がそれほど大きくなく、
店の雰囲気同様、他にはあまり無い独特のガッシリとした歯応え。
ただ、このぶっかけの個性である甘く煮たシイタケの味が、
麺にも強く影響しているのが気になった。
壁に貼られたメニューに、一番人気だと書かれていた、
『カレーうどん(大盛)』
カレーの上に掛けられた白いものは、
おそらく生クリーム。
そして小皿には、甘く煮た昆布。
昆布・・・!
さっきはシイタケだったぜ・・・!?
瞬間。
竜一の脳内で、閃光煌く。
こ・・・この攻めは・・・!
まさか・・・伝説の・・・!
煮物無双・・・!!
初めて目の当たりにする秘技を前に、
竜一、心底震えていた。
凄まじい・・・!
圧倒的・・・煮物・・・!
俺もいろんな高知のうどん屋さんを食べて歩いてきたが・・・!
煮物無双の使い手に出逢うのは初めてだぜ・・・!
ここまでショパンが煮物好きだったとは・・・予想外・・・!
しかも・・・この昆布・・・!
何気に・・・イケてる・・・!
スパイシーなカレーに・・・!
甘い昆布の煮物・・・!
まさかのコンビネーションだが・・・!
これこそがショパンの本質・・・真骨頂・・・!
合う・・・合わない・・・!
そんな次元の勝負・・・!
とっくに・・・超越・・・!
合う必要なんてねぇ・・・!
大事なのは・・・!
他の誰にも出せない・・・この・・・!
攻撃力っ・・・!
湧き溢れるショパンの個性。
堪能して、店を出る。
吹き付ける、冬の突風。
振り返って、相変わらず独特の雰囲気で佇むショパンを眺め見る。
腹の底から、シイタケの香りがフワッと込み上げた。
◆ ショパン
営業時間/8時~14時(うどんは11時~14時)
定休日/火曜日
営業形態/一般店
駐車場/有
(あったかぶっかけうどん480円、カレーうどん550円、大盛150円増)
『ショパン』の場所はココ!
(県道227号線、「ルネサステクノロジ」という名前の大きな工場の南東側にあります。県道沿いでは無いですが、県道沿いにうどん旗が立っているので分かると思います。(^ω^))
1位で竜一が全裸になるランキング。♪~(´ε` )