前編はコチラっ・・・!
『もうひとつの景福宮 前編/沈思の果て』
【前編までのあらすじ】
韓国料理の人気店『景福宮(きょんぼっくん)』を目指した竜一。
しかし、途中からなんだかワケの分からないことになって、
結局、『景福宮大丸店』に来てしまったのであった・・・!
様々な商品を陳列したカウンターの向こう側に、
韓国の方なのだろうか、赤い民族衣装を着た女性がいた。
「オベント・・・イカガデスカ・・・!
アト一個デス・・・!」
と、片言の日本語で言う。
<あと一個・・・!
そんなに売れてんのか・・・!>
竜一は、『限定』という言葉に弱い。
『あと一個』という言葉にも弱い。
<あと一個・・・!
買わなかったら・・・人生の9割を損しそうなほどの響き・・・!
そんなこと言われたら・・・なんだか買いたくなっちまう・・・!>
だが、弁当購入に傾きかけた、
竜一の脳内を揺るがす強敵がもうひとつ。
<うわぁぁぁ・・・隣のビビンパも美味しそう・・・!
どうしよう・・・!決められねぇ・・・!
弁当か・・・!ビビンバかっ・・・!>
迷っている竜一に、
おばちゃん、畳み掛ける。
「オベント500円・・・トッテモお得デスヨ・・・!
ビビンパも・・・オイシデスヨ・・・!」
双方で迷っている竜一の心の内を詠み切ったかの如く・・・!
その両方を薦め放つ・・・おばちゃん・・・!
<そこまで押し込まれたら・・・逃げられねぇ・・・!
もう買うしかないっ・・・!>
弁当も・・・!
ビビンバも・・・!
「じゃ・・・じゃあ・・・!
こ・・・これと・・・これ・・・!」
「アリガト・・・ゴザマス・・・!
アト・・・!」
<あと・・・!?>
「コチラのキムチもオイシデスヨ・・・!」
そう言いながら、楊枝に刺したキムチの試食を渡してくれる。
どうやら、イカのキムチのようだ。
モグモグ・・・。
<おおっ・・・イカのシュコシュコとした弾力・・・!
噛み込む度にイカの甘さがジワジワ・・・染み出てくるっ・・・!
さらにピリッとキムチらしい辛さが弾けて・・・!>
超絶キムチィィィ・・・!
<これは本当に美味しい・・・!
お世辞抜きの・・・マジ馬っ・・・!
これ・・・買って帰ろうかな・・・!>
などと思いながら、食べていると、
今度はまた別のキムチを渡してくれる。
<ほむほむ・・・!
これは何のキムチだろう・・・!>
実は、説明してくれたのだけれど、
話を聞いていなくて分からなかった。
※ 竜一は、うわの空で生きております。
エンジンが掛かったおばちゃん。
さらに、別のキムチを渡してくれる。
「コチラもドウゾ・・・!
メズラシイ・・・リンゴのキムチデス・・・!」
「リ・・・!リンゴ・・・!?」
「ハイ・・・トッテモ・・・オイシデスヨ・・・!」
モグモグ・・・。
モグモグ・・・。
<ああっ・・・たしかに・・・リンゴ・・・!
ファーストインパクトはキムチの辛さ・・・!
それを噛み込むと柔らかく溢れ出す・・・リンゴの甘み・・・!>
例えば、白菜キムチでも甘さと辛さが混在するけれど、
その対比を、さらに強烈に感じられるのが、リンゴキムチである気がした。
おばちゃん、
まだまだ止まらない。
「オクラのキムチもアリマスヨ・・・?」
竜一の大好物・・・オクラで・・・!
完封を狙う・・・おばちゃん・・・!
だが・・・!
竜一は・・・それを跳ね返す・・・!
「ま・・・まぁ・・・!
キムチはいいです・・・!」
『限定』には弱いが、『試食』には強い竜一。
結局、弁当とビビンバを購入することに決めて、
その二つを手に取り、おばちゃんに差し出す。
「じゃあ・・・これと・・・これ・・・!」
しかし、おばちゃんは受け取ろうとせず、
違う場所にあるレジを指さした。
「あ・・・オカイケイはアチラでオネガイシマス・・・!」
<しまった・・・ここで裏を突いて来たか景福宮・・・!
くっ・・・!油断していた・・・!
お金は大丸のレジで支払うシステムだったか・・・!>
動揺する竜一を尻目に、
おばちゃんは、微笑みながら言った。
「アリガト・・・ゴザマシタ・・・!
カムサハムニダァ・・・!!」
最後に飛び出たマジ韓国語に、
ちょっぴり興奮しながら帰った。
<生で韓国語を聞いたのって初めてかもしれない・・・!>
夜。
<ククク・・・!
日は暮れ・・・機は熟した・・・!
そろそろ食うか・・・!>
景福宮と竜一・・・!
閉ざされた運命の扉が・・・!
今開くっ・・・!
弁当の・・・!
蓋と共にっ・・・!
『ヤンニョムチキン弁当』(500円)
飴ちゃん付き・・・!
<凶悪な赤を纏った鳥・・・!
コイツが恐らくこの弁当の主役・・・!>
それを一口・・・!
<おぉおぉおぉおぉおぉおぉ・・・!
感じるっ・・・!感じるっ・・・!>
韓の風・・・魂・・・!
ソウル・・・!
情熱の息吹を・・・!!
鶏肉に衣が付いていて、
少し酢豚の肉の食感と似ている。
それに、コチュジャンだろうか。
一般的なチリソースの味を数段階濃密にしたような、
強主張の甘辛ソースが絡められている。
<甘さと辛さのダブルアタック・・・!
ジワリ・・・ジワリ・・・染み出る汗・・・!>
開きまくるぜっ・・・!
体中の毛穴がっ・・・!
『ビビンバ』(580円)
<なんだかわかんねぇけど・・・!
この赤いタレ・・・なんたらジャンが・・・!
これまた甘辛で・・・!んんんんんっ・・・!>
マシッソヨ☆
モグモグと食べながら、
私は昼間のことを思い起こしていた。
<それにしても・・・景福宮本店は・・・!
あの看板の矢印に素直に従って行けば良かったのか・・・!
俺としたことが・・・とんだ不覚・・・考え過ぎちまったぜ・・・!>
そして誓を刻む・・・!
心の中に・・・!
本店には、また今度行こう☆