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オープン当初の「らっしゃいっっっ!!!!!」みたいな緊張感が良い意味で抜けて、
「いらっしゃいましぃー」というような穏やかな雰囲気で迎えてくれる「だいせい」
テーブルに付くなり目に付いたのは、「おろし生姜」
手のひらサイズのガラス容器に入れられたそれは、
えらくお上品にすりおろされている。
一瞬、「さすがは"だいせい!"生姜の扱いが丁寧だ!」
などと無駄に興奮しそうになったけれど、
すぐさま、これが罠であることに気が付いて冷静さを取り戻した。
<よくよく考えてみろ・・・おそらく"だいせい"は
生姜農家である俺がこの席に座ることを、あらかじめ予見していたんだ・・・!
そうでないと、この"おろし生姜"の美しさに説明が付かない・・・!>
毎日、昼前に「Twitter」上で流される「だいせい」のオススメ情報・・・!
<それに釣られた俺がコンニチこの席に座るところまで、
きっとアメリカの「NASA」かどこかに依頼して、
「だいせい」はすべて計算し尽くしていたんだっ・・・!>
「NASA」の協力を得て入念に濃密に計算し尽くした上での、"おろし生姜"・・・!
だとすると・・・だとすると・・・もう辿り着く答えはひとつしかない・・・!
狙い撃ち・・・!
つまりやはり"だいせい"は・・・!
俺だけを狙い撃ってやがるっ・・・!
そんなこんなで私は卓上に置かれた「おろし生姜」ひとつから、
すべてのロジックを解明することに成功したが、もはやそんなことはどうでもよくて、
とりあえずお腹が空いたから、早く注文しようとメニューを開いた。
<よし・・・コレで勝負っ・・・!>
メニューを開いてから、コンマ2秒。
今回はわりとスンナリと注文する品を決定。
さて、ここからが私の正念場。
決定した注文を店員さんに伝えなければならない。
「だいせい」の店内は広い。
この広さの中で店員さんを呼ぶのは至難の業。
けれども実はこのとき、
私は入店して席に座るまでのわずかな時間の中で、目視により確認していた。
オープン当初に訪ねた際にもいた
超音波担当の男性店員さんが、今日もいることを・・・!
<アイツがいれば大丈夫・・・!
アイツはイルカだ・・・俺の超音波を感じることが出来る・・・!>
注文を決定した私は、
当然その"超音波担当"にすべてを委ねようとしていた。
超音波担当は、遥か後方。
だが、大きな問題は無い。
彼はイルカなのだから。
得意の超音波でもって彼を呼ぼうとしていた、正にその時。
戦局、動く。
私が座るスグ前方のテーブルにいた客が帰り、
そのテーブルの片付けをするために女性店員さんが来たのだ。
未曾有の注文チャンス・・・!
もうイルカに頼る必要は無くなっていた。
私は女性店員さんを普通に呼び止めて、普通に注文した。
そこには超音波もテレパシーも無かったし、
果たしてイルカじゃなくて良かったのかという想いも、わずかばかり滲んだけれど、
これで良かったんだ、こうするしかなかったんだ、と自分に言い聞かせた。
(EP3へ続く・・・!)
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