凄まじい豪雨だった。
車を運転していても、天から叩きつける水のしぶきで前が見えないほどだった。
それでも私は行きたかった。
うどんを食べに行きたかった。
晴れて畑の土が乾いた日には、
自分が生きるために、絶対に生姜の定植をしなければならなかった4月の上旬。
私には畑が乾いていない日、
もしくは雨の日しかなかったのである。
うどんを食べに行ける日が。
南国市を貫く国道55号線の車道脇には、
"池"と言えなくも無いほどの大きな水溜りが出来ていて、
それに乗ってしまわないように注意しながら西進した。
「サニーアクシス」という大きなスーパーマーケットの直前を左に折れると、スグ。
『うどん処 大名庵』
そこにある「大名庵」の姿を見るのは、実に数年ぶりだった。
とはいっても、大名庵がある南国市のスーパーの生産者コーナーで、
最近は見かけないけれど一時期売られていた、「大名庵の"茹で麺"」を時々買って家で食していたから、
大名庵に行くのは数年ぶりでも、大名庵のうどんを食べるのは、それほど久々でもなかった。
けれども、店に行くのはたしかに数年ぶりで、
"スーパーで茹で麺を買える"というそのことは、
大名庵と私の距離を近付けているようで、ある意味では遠ざけていたのである。
結果的に空いた長い年月を埋めるキッカケを生み出したのは、「シャモ」だった。
近年、南国市に関連してよく聞く「シャモ(=軍鶏)」という種のニワトリの肉。
それが、どんな香りで、どんな食感で、どんな味であるか、知りたいと思ったのだ、あるとき突然。
だが、一体どこに行けばシャモの肉が食べられるのか・・・。
そう考えを巡らせた瞬間に、
脳内にたくさん並んだ記憶の引き出しの中のひとつを、ナニカが迷わず一気に引っ張り出した。
<そういえば、たしか大名庵にシャモ肉を使ったうどんがあると聞いた気がする・・・>
今現在、食べたい"シャモ肉"に、
常に食べたいと思っている"うどん"の組み合わせ。
もはや豪雨でも前が見えなくても、だからどうした!である。
この機を逃すと次がいつになるか、わからなかったし、
危険回避のため、たとえ40キロ制限の道路を20キロで走らざるを得なくても、
シャモが私を呼んでいたし、私はシャモを、あるいはうどんを渇求していた。
(後編へ続く・・・!)
『後編を読む』