春風吹く4月のことだった。
私は、高知では少ない個人経営のセルフ店である、
香南市野市町の「手打うどん吉川」を目指していた。
熾烈を極めた、吉川と私の三つの肉を巡る戦いも、いよいよ最終局面。
<武蔵野風肉汁うどん・・・ピリ辛鳥ぶっかけ・・・!
豚と鳥を制圧したんだ・・・!
こうなったら今度は牛・・・!肉ぶっかけで・・・!>
吉川・肉の三冠を達成するしかない・・・!
「吉川・肉の三冠」
それは、うどん中毒なら誰しもが憧れるタイトルのひとつであり、
当然、私もこれを達成するのが数年来の夢、マイドリームだった。
しかし、吉川とて「物部川橋」東詰に君臨するうどん屋さんだ。
私みたいなヘタレに、簡単に三冠を獲らさせてくれるとは到底思えない。
そこで、コンニチまで対戦を先延ばしにして、
その間に私は日々、イメージトレーニングをしたり、
オバ=ア汁を、オバ=アが唖然とするほど飲みまくって、胃袋を鍛えまくってきた。
<フフッ・・・吉川さん・・・!
ボクはアナタの肉ぶっかけを・・・頂きに上がりました・・・!>
『手打うどん 吉川』
「ガラガラガラ」と昼下がりの吉川の戸を鼻息荒く開けて、入場する。
突然メニューから消えていたらイヤなので、
カウンターの上方に掛けられたメニューに"肉ぶっかけ"があるか否かを一応確認した。
<大丈夫だ・・・ある・・・!あるっ・・・!
これで三冠最後の肉への挑戦権を得た・・・!>
カウンター越しに待っていた店のオバチャンに、「特大」で発注。
すると、オバチャンからの伝達を受けて、
すぐさま奥にいる男性達が盛り付けを開始。
数十秒の後に王者、「肉ぶっかけ」は完成した。
それをオバチャンから受け取って、
ネギや生姜を乗せて麦茶を入れて、空いていた席に腰を下ろした。
「チンシャラポロロン♪」と喫茶店みたいな心地よい音楽が流れる店内。
過去に吉川でBGMが流れていたかと記憶を辿ったが、思い出せない。
思い出せないが、その音楽は、三冠最後の一冠を巡る戦いを盛り上げるに十分だった。
<吉川さんは間違いなく高知のニクキングだ・・・!
ムシキングなんかじゃねぇ・・・三種の肉を取り揃えたニクキングだ・・・!>
だからこそ挑戦する甲斐がある・・・!
このタイトルは是が非でも獲りたい・・・!
このタイトルを獲ることが、小さい頃からの夢だった・・・!
『肉ぶっかけ(特大) & エビ天』
ダイコンを卸すことまでセルフである吉川。
私は、盆の上に置かれたそのダイコンを手に取り、ゆっくりと卸し始めた。
すると、目の前のうどんが喋った。
「竜一・・・ワシはそう簡単にオマエに食べられはしないぞ・・・!
ワシは暴れる・・・!」
「暴れる・・・!?」
「あぁ・・・そうさ・・・ワシは細麺・・・!細麺ゆえの軽量・・・!
その軽量を活かし・・・お口の中でビロンビロン暴れてやるのさっ・・・!」
「えぇっ・・・それはちょっと・・・暴れられたらツライなぁ・・・!」
不安を口にしながらも、私は麺を口へ運んだ。
ほのかに甘く味付けされた肉
そして、予告どおりに大暴れする麺!
獰猛な肉ぶっかけの攻撃を、
どうにかこうにか耐えながら、
私は、ガブガブと食べおおし、ついにやりおおした!
悲願の、「吉川・肉の三冠」達成!
初音ニク・・・!
終盤、私と肉ぶっかけは、
こんな言葉を交わしていた。
「くっ・・・竜一・・・!
オマエがあの初音ニクだったとは・・・!」
「フフッ・・・驚いたかい・・・しかし勝負は紙一重だった・・・
むしろ俺が初音ニクじゃなかったら・・・!
あるいは食べおおせていなかったかもしれない・・・またいつか再戦しようぜ・・・」
「あぁ・・・!グフッ・・・!」
返却口に食器を返して、昼下がりの「吉川」をあとにする。
軽やかな音楽が流れていた、「チンシャラポロリン♪」と流れていた。
◆ 手打うどん 吉川
(高知県香南市野市町西野1523)
営業時間/11時~14時(14時までに変更されている模様)
定休日/月曜日(月曜が祝祭日の場合はその翌日)
営業形態/セルフ
駐車場/10台
(肉ぶっかけ460円、ピリ辛鳥ぶっかけうどん460円、醤油うどん280円、武蔵野風肉汁うどん500円、
[大は100円増、特大は200円増]ちく天100円など)
『手打うどん吉川』の場所はココっ・・・!