ヒンヤリした風が静かに漂う夜だった。
私は土佐山田の老舗の戸をガラガラと開けていた。
『麺房 久五』
外と一転して暖かな店内。
明らかに酔っているオジサンたちが、
奥のカウンターで賑やかに談笑している。
私は4人掛けのテーブル席に腰を下ろした。
そうしていると、
水が入ったコップを持って歩み寄ってくる大将。
ニコニコ微笑んでいる。
「いらっしゃいませー!」
水の攻撃に、入店直後から恐縮。
謝る私。
「あぁっ・・・すんませんっ・・・!」
そして思った。
<大将・・・なんだかイイ人そう・・・!
この人となら旨い酒が・・・!
いや・・・旨い出汁が飲めそうだ・・・!>
テーブルの上に立てられたメニュー。
それを見た私はあるものに注目した。
<からころ・・・!
"からころうどん"って・・・なんだっ・・・!>
しかも!からころ!
豊富!いっぱいある!
<"から"に"ころ"・・・だから・・・
唐揚げとコロッケ・・・とか・・・!?>
わからない・・・!
わからないからこそ・・・!
面白いっ・・・!
見に行こう・・・!
新しい世界へ・・・!
謎の"からころ"を・・・!
見に行こうっ・・・!
私は大将を超音波で呼び寄せた。
そして注文した。
「すいません・・・!
に・・・肉からころうどん・・・!」
無意識に「モォー」と鳴いてしまうほど肉が食べたかったので、
「肉からころうどん」にした。
「温かいのと冷たいのがありますけど・・・!」
<温・冷が選べるのか・・・!
でもなんとなく・・・温にしておこうかな・・・!>
注文を受けて、
奥の厨房へ歩いていく大将の背中に、また発す。
「あぁっ・・・大盛で・・・!」
大盛!なんと!たったの50円増!
さらに中盛は30円増っ・・・!
大将はニコニコ微笑みながら、
今度こそ厨房へ去っていった。
<危なかった・・・間一髪・・・!
もう少しで大盛オーダーをエラーするところだった・・・!>
メニューに「特盛」の記載がなかったので、
「大盛」にしたけれど、それが不安だった。
<大丈夫か・・・大盛で・・・!
おそらく大盛は2玉・・・!
2玉で俺の宇宙が満たせるのかッッッ・・・!>
謎の"からころ"。
登場。
『肉からころうどん(大盛)』
<これが・・・これが・・・!
謎と神秘の真の姿っ・・・!>
唐揚げも!
コロッケも!
乗ってない!
乗っているのは・・・!
衣・・・!
圧倒的コロモォォォッッ・・・!
<この天ぷらの衣こそが"からころ"・・・!
そうとしか考えられない・・・!
カラっとした衣・・・という意味で"からころ"なのかっ・・・!?>
わからない・・・!
わからないが・・・しかし・・・!
まぁ、いいや。
注文時からあった「大盛」への懸念は杞憂に終わる。
器の深さが、罠。
<減らない・・・!
食べても食べても麺が減らない・・・!
しかも出汁がドンドン少なくなっていく・・・!>
俺は麺しか食べていないのに、だ・・・!
<単純に麺が減った分・・・!
出汁の水深が浅くなっていっている・・・!
それもあるかもしれない・・・!>
しかし尋常じゃない・・・!
<麺の減り具合に・・・!
出汁の減り具合が比例していない・・・!>
出汁だけが消えてゆくッッッ・・・!
そのとき私の脳裏に、
閃光、走る。
<あぁぁぁぁぁっっっ・・・!
まさか・・・これってまさか・・・!>
衣・・・"からころ"が・・・!
スポンジが水を吸収するみたいに・・・!
出汁を吸っているんじゃないのか・・・!
慌て・・・ふためきながら・・・!
からころを食べるも・・・!
時・・・すでに遅しっ・・・!
出汁っ・・・!
3分の1にっ・・・!
激減っ・・・!
からころは・・・!
出汁を吸い尽くす・・・!
しかし、それもまた楽し。
私は嬉々として食べる。
<シャキシャキの生のキュウリが・・・!
食感のアクセントになっていい感じ・・・!
温かいうどんにワサビを付けて食べるというスタイルも新鮮だ・・・!>
出汁が独特で、
他のお店にないような、
まろやかで個性的な味だった。
『かき揚げうどん(大盛)』
(巨大かき揚げが、2枚!)
「大盛」でも、おそらくセルフ店の3玉、
・・・もしかすると、それ以上あるのではないかと思われる、
圧倒的な麺量による圧倒的な攻撃を受けて、圧倒的フラフラになって退散!
◆ 麺房 久五
(高知県香美市土佐山田町東本町3丁目1−39)
営業時間/11時~21時
定休日/火曜日
営業形態/一般店
駐車場/有(店舗横のほか、ブロック塀を挟んだ西側にも有)
『麺房久五』の場所はココ・・・!