『EP6を読む』
<食べたいよ・・・食べたいよ・・・キージーカレー・・・>
愛媛県から香川県へ通じる、何号線だかよくわからない国道を東へ走る。
車窓から、誰かが住んでいる家や、誰かが営んでいる商店が見える。ガソリンスタンドも見える。
僕には少し気がかりなことがあった。
でもウサギたちに会えて、バリィさんに会えて・・・2つの夢が連続で叶って気分がいい。
<なんとかなるだろう・・・!>
と僕は楽観的に考え、道路標識に従って進路を南へ変えた。
高知へは、西条市から「寒風山(かんぷうざん)」を越えるルートで帰る。
行きは高速道を使ったのに、一般道で帰ることにした。
それにはバリィさんに会うために今治へ寄ったのと同じように、明確な目的があった。
道の駅・木の香(このか)で、
キージーカレーを食べたい・・・!
『道の駅・木の香』では・・・。
胴体は深い緑色・・・!
背中は白っぽくて尻尾は長い・・・!
それでいて顔面は赤くてクチバシは黄色っぽい・・・!
あ・・・の・・・!
キ・・・ジ・・・☆
そう、いわゆる鳥類のキジを使った料理を数種類、提供してくれると、僕はグーグル社(検索)からの情報を勝手に得て知っていた。
僕は可愛いものも好きだけど、シカとか、イノシシとか、ウドンとか、野生的なものも結構好きだ。
だけどキジは食べたことがない。
そこで是非とも『道の駅・木の香』で、木の香名物だと勝手に思っている「キージーカレー」でもって、初キジ体験してみたいと、ここ数年、夜も寝ずにずっと考えていた。おかげで寝不足だ。
だが『道の駅・木の香』は家から遠い。
気軽には行けない。
しかし愛媛帰りのこの局面。
<西条市から寒風山を越えるルートで帰りさえすれば・・・>
と僕は考えたのだった。<そうすれば"道の駅・木の香"の真ん前にたどり着ける・・・!>
わざわざ行こうとしていた『道の駅・木の香』に、"ついで"に寄れる未曾有のチャンス。
僕は高級な軽自動車のアクセルを踏み込んで、寒風山の急坂をブンブン上る。
寒風山の上方には、愛媛県と高知県を結ぶ「寒風山トンネル」がある。
その寒風山トンネルを抜ければ、『道の駅・木の香』はスグソコだ。
「ピッ!」
そのとき軽やかな電子音が鳴る。
僕の高級な軽自動車は高級なので最新のシステムがついていて、ガソリンの残量が5リッター前後になると、電子音を発して知らせてくれるのである。
つまり高級な軽自動車の燃料タンク内のガソリンは、残りわずかだ。
<いやぁ・・・>
僕は苦笑した。
ガソリンの残量が少ないことには、今治市内を走っている時点で気が付いていた。
でもガソリンの価格になんだか納得できなかったので、給油せずにそのまま走っていた。
<なんとかなるだろう・・・!>
と楽観的に考えていた。
いままでの人生、大抵なんとかなってきた。
だから今現在、僕は生きている。今回もなんとかなる・・・ハズ・・・。
<さすがにそろそろ給油しないと危ないな・・・>
僕は寒風山を上っている途中の坂道で、一旦、路肩に車を停めた。<えぇと・・・この辺りにガソリンスタンドは・・・>
スマホで最寄のガソリンスタンドを検索する。
するとスマホは、さっき通過してきた愛媛県西条市ガソリンスタンドを表示する。
「ちょっ・・・おまっ・・・!」
僕は車内で苦笑する。「これって何十キロも戻らんといかんやん!」
口に出してそう言った瞬間、自分の顔面から血の気が引いていくのがわかった。
「え・・・待って・・・もしかして・・・これ・・・が・・・」
目の前が白くなってきた。「これがいま俺がいる位置から最も近いガソリンスタンド・・・?」
自分の体に流れる血の循環が止まったみたいに、なんだか寒い。
それなのに心臓はバクバク鼓動している。
スマホを持つ手は、脂汗でグチョグチョだ。
<どうしよう・・・どうしよう・・・>
車のアラームが鳴ったことから考えて、ガソリンの残量は5リッター前後。
・・・あくまで5リッター前後。正確に残り5リッターなのではない。
寒風山の坂道を上っていて、燃料タンクは傾いた状態だったはずだし、
もしかすると残り4リッターとか・・・あるいは4リッターも無いのかもしれない・・・。
さらに無いのは、燃料だけではない。
周りには家も店も何も無い。
竜一・・・!
圧倒的!孤立っ・・・!
(笑えない。笑えない)
選択肢は2つ。
西条市まで引き返すか、一気に寒風山トンネルを抜けて、高知県内へ入るか。
僕は高級な軽自動車のハザードを消し、アクセルを踏み込んだ。
<もうダメかなって思ったときこそ・・・勝負だろっ・・・!
ダメでも・・・それでも前に進むのが・・・気持ちのいい人生ってもんだろう・・・!>
西条市へ引き返したほうが、ガソリンスタンドが近いことはわかっている。
西条市へ引き返せば確実にガソリンは足りる。だが、あえて高知県を目指す。
<この判断は自滅へ繋がるかも・・・>
再度の上り坂に高級な軽自動車は豪快なエンジン音を上げる。それはまるで悲鳴みたいに聴こえる。
(続くー!)※ 続き!書いているんですけど時間がないので、お昼頃アップします!
大人の事情により、予定を変更して明朝アップします!ご了承ください。(´・ω・`)
『EP8を読む』