本当にいるのか・・・!
この高知市中心部の街中に・・・!
イノシシが!
生姜の収穫期を間近に控えた頃。
コインパーキングに高級な軽自動車を停め、降り立った高知市の・・・圧倒的帯屋町。
<何処だ・・・イノシシはいったい何処に・・・!>
いにしえの噂によると、イノシシはこの街の何処かにいるらしい。
「くんくん!」
戌年の私は犬みたいにイノシシの香りを追い、柳町通りに達した。
一軒の店を見つけた。
<きっとここだっ・・・!ここからイノシシの香りがプンプンする・・・!>
いかにもイノシシがいそうな気配。雰囲気。
私はその店に入ろうとした。同時に躊躇もした。
『くろちゃん食堂』
店に対する人見知りが尋常じゃない。
<ここ・・・前に『飲んだくれの果て』のお母さんも書いてた店だよね・・・!>
街中を、かなり歩いて疲れていた。
昼時をすぎて、お腹も空いていた。
だがっ・・・!
簡単には入れないっ・・・!
<怖い・・・!
初めての店・・・怖い・・・!>
でも、なけなしの勇気を振り絞るしかない。
お腹はペコペコ。もう歩けない。
恐る恐るの入店。
「いらっしゃい!」
開け放たれたままの戸を潜ると、店のオバチャンが迎えてくれた。
店内、広くない。
テーブルが3卓ほどあるのみ。
勝手がわからない。
空いていた席に、とりあえず腰を下ろす。
オバチャンが持って来てくれた・・・。
冷茶。
さらにオバチャンは、ペットボトルに入ったお茶を置いていった。
<お茶のおかわりは、これっ!そういうことか!>
私は嬉々とした。<この感じ・・・雰囲気・・・料理を食べる前から味があるぞっ・・・くろちゃん・・・!>
店内を眺める。
壁に貼られたメニュー。
『いのしし鍋焼ラーメン』に目が留まる。
背筋に走る、電流。
<やっぱりいたんだ・・・!
この高知市中心部!帯屋町・・・!
柳町通りに・・・!>
イノシシがっ!
"いにしえの噂"は証明された。
「柳町のイノシシ」は、たしかに存在していた。
感動の涙が、ナイアガラみたいに溢れ・・・はしない。
早速、オバチャンに『いのしし鍋焼ラーメン』を注文した。
ふと右。
壁際を見ると『飲んだくれの果て』のお母さんのブログにも登場していたリサイクルボックスが、チューブワサビや七味唐辛子などを携え、壁にかかっていた。
元々チューブワサビなどが入っていた箱を、切って画鋲で壁に貼り付け、ケースとして再利用しているのである。
<なるほど・・・こうすれば空間を有効活用でき・・・なおかつゴミが少し減るっ・・・くろちゃん・・・賢いっ・・・!>
さらに後ろを振り返る。
そこには「食堂」ならではのものが鎮座。
冷蔵庫の中でラップを被り・・・!
今や遅しと客のシェイクハンドを待つ・・・!
圧倒的・・・!
惣菜群っ・・・!
刺身や煮物、和え物などがいる。
取ろうかと迷った。
でも私は取らなかった。
<今日のターゲットは・・・とにかくイノシシ・・・!未曾有のイノシシ鍋焼きラーメン・・・!その全容がわからない中・・・!他を食べて消耗するのは危険・・・!相手は猛獣・イノシシなんだ・・・!>
(後編へ続く)
二十数日振りのグルメネタよ!
『後編を読む』