連日、19時半くらいまで働いていた。
台風が僕たちを急き立てていた……。
朝。畑。
杭を打つ。
台風11号が、土佐湾沖、
もう間近に迫っていた。
それなのに白い雲の切れ間から
青色も覗く空。
一人、杭を並べて打つ。
やがて大粒の水滴が落ちてきた。
一時、車内に避難。
スマホで上空の雨雲の状態を確認して、
合羽(かっぱ)を着るか否か判断する。
<まだ着なくても大丈夫そうだな……>
一旦、雲が切れて雨は止んだ。
オビ=ワンとオバ=アも合流し、
総出で作業にあたる。
私はひたすら杭を並べて打ち、
オビ=ワンとオバ=アはひたすら網をかけた。
昼過ぎまでかかって、
すべての畑に網を張り終える。
のべ3日かかった。
「家へ帰ってもなんちゃあない言うき、
昼飯ラーメンでも食べに行くか?
おまん、なんかえい店知っちゅうろう」
オビ=ワンにそう言われて、
頭の中でラーメン店を検索したけれど、
……いわゆる年寄り向けの店がHITしない。
「ラーメン屋……
あんまり落ち着いて食べれる店がないで…」
じつの祖父が相手でも"年寄り向けの店"
という言葉をオブラートに包んで言い換える、
世界屈指の気遣いができる優しい男、竜一。
きっと全世界の老人が、
こんな孫欲しい!と思うことだろう。
「そんなに騒々しい店ばっかりかや?」
都合の悪い質問は無視して考える。
年寄りでも落ち着いて食べられる
ゆったりした雰囲気の店がどこかにないものか…。
「あぁ…うどんでもかまんかえ?」
『手打ちうどん 田吾作』
14時が近かったけれど、店内ほぼ満席。
終業式帰りと思われる家族連れが多い。
座敷が1卓だけ空いていたので、そこへ。
メニューを見るなり、
「オラぁ、これ!」と指差すオビ=ワン。
『すき焼き風肉鍋うどん』……!?
890円もするじゃないか………!
「い…一番高いがにするかえ……!?」
「おう、一番高いがにする」
ブルジョアか!あんたは!
890円のうどんなんて、貴族のうどんだぞっ!
オバ=アは………!?
「アタシこの鍋焼きうどんいうがにしよう」
このクソ暑いときに、鍋焼き……!
そのときオビ=ワン。
「なんか、ごはんものはないがかや。
おお……ちらし寿司がある………」
瞬間、店のお姉さん。
「すいません!今日お寿司売り切れました!
白ごはんやったらあるんですけど……」
「ほいたら、それ貰おうか」
「そんなによう食べるかえ……!
うどん結構、ドォーン!ってくるでぇ?」
私の言葉にオバ=アも賛同。
「オジイさん、よう食べるかえ?」
「食べいでか……!
おお、それとお姉ちゃん、
ここにはビールいうものはないかえ?」
ビール………?
いまこの人なんて言うた?
ビール…………?
昼間っからビール………?
「缶でよかったらありますけど」
あるんかえ…!
田吾作っ………!
一人、手酌でビールを飲み始めるオビ=ワン。
<絶対に注いでなんかやるものか…!>
運転手…孫……隣で冷水ガブ飲み……!
高級うどんの発注、
白いうどんに白ごはん、炭水化物に炭水化物、
うどん屋でビール。昼間からアルコール。
私の中にはない発想が次から次へ飛び出し、
軽いカルチャーショックを受ける。
この不良老人めっ!不良老人めっ…!
不良老人の奢りだということで、
私はいままで注文したことのなかった、
上流階級向け『特上天ぷらうどん』(720円)
(今回スマホにて撮影です)
「ここは、竜一の行きつけか?」
そう訊くオビ=ワン。はぐらかす孫。
「いや、1回か2回くらい
来たことあるけど、あんまり知らん」
本当は、もう何回来たのかわからないよ…。
「ブログいうもん、まだやりゆうか」
「いや、あんまりやりやあせん」
本当は、毎日頑張って更新しているよ…。
1円にもならないけどね………。
ちなみにこの会話も……
明日には世界配信さ………。
午後、雨脚が強まる中、
合羽を着て防風ネットを張る。
今日も19時半。
汗と油と泥にまみれて帰宅。
予定していた台風対策はすべてできた。
台風は夜中に高知の上空を通過するらしい。
これで明日の朝、
なにかが起こっていたら、もうどうしようもない。
「こればっかりは博打みたいなもん。
なんぼ用意したち、打ってみにゃわからん」
生姜を60年ほど、
半世紀以上にわたって栽培している男の言葉である。