南国バイパス沿いにある『カフェ オルソン』に到着したとき、すでに午前10時半が近かった。
出入口に立てられたボードに貼られた、A、B、C、三つのモーニングメニュー。Bモーニングは、すでに「売り切れ」とされている。
「結構入ってる……」
ほぼ満席の店内。わずかに空いていた席に腰を下ろす。
カフェ オルソンのモーニングメニュー
「あぁっ!俺『Bモーニング』が良かった……!」
真っ先に売り切れるわけだ。
- Aモーニング / 厚切りトースト(500円)
- Bモーニング / クロワッサンサンド(680円)
- Cモーニング / 胚芽トースト(550円)
「それぞれ値段が違い、Bがもっとも高級だが、それでもBが良かった!だってクロワッサンサンドだよっ……!?」
大体クロワッサン、ってのはうまいんだよ!
【格言】クロワッサンにハズレなし。
「ないものは仕方がない。AかC、二者から選ぶしかない……」
厚切りトーストか!胚芽トーストかっ!
再度、メニューを見据える。
「Cモーニング」の下、"胚芽トースト メイプルシロップ"という記載に目が留まる。
「メイプルシロップか……!」
甘いものは不得手。それも朝からはツライものがある。
A、B、C、三つあるように見えた選択肢。実際のところ私に選択の余地などなかった。
いや、むしろ選択の余地がなかったというよりも、何か不思議な力が私をAモーニングへと向かわせた。そういう可能性もあり得た(ない)。
窓際、ではないが、2歩ほど歩けば窓にブチ当たるくらいの席だった。
窓の外の南国バイパスを、無数の車が往来している。見えるのは車の屋根の部分だけ。屋根が行きかっている。
メニューに「トースト100円」と書かれている。
「トーストのバラ売り、そういうのもあるのか……」
厚切りトーストの「Aモーニング」に単品のトーストを1枚追加すれば、トーストの大盛。2枚追加すれば、トーストの特盛、みたいなことができそうだが、30過ぎて代謝が落ちてお腹が出て、腹が玉子になった男にそんな暴挙は許されない……。
『Aモーニング』が出来上がってきたのは数分後だった。
トースト、サラダ、スープ。
皿全体から漂う欧州感。貴族の朝食という感じがする。
レタスをフォークで突き刺す。そして食べる。
「なんて優雅なんだろう。レタスの味がする……」
一般的にモーニングセットのスープは、味噌汁や、ポタージュスープ、ワカメスープ、そういうのが多い印象がある。
だが『オルソン』のスープは違う。
刻まれた野菜がたくさん入った、薄味で貴族の香り漂うスープだ。
「上品なお味で………」
たくさんの客で賑わう『オルソン』の店内で、そう感想を述べる私は、誰の目にも「晩餐会に行き慣れた高貴な育ちの人」に見えるに違いない。
「体系が玉子だとしても、貴族だからまぁいっか。貴族って大体みんな体系玉子なイメージだし」
卓上に置かれていた岩塩を、ゆで卵に振りかけながら思った。
「この塩、美味しい……」
ゆで卵を食べ、二粒載ったブドウを食べ、膜の張ったホットミルクを飲む。
「うーん。貴族の朝って感じだ。今日は何をして過ごそう……」
貴族の会の予定もない。
珍しくフリーな一日だ。
時刻を確認した。
「あと1時間で12時か……」
そろそろ昼食どき。
「よし!うどんでも食べに行くかっ!」
南国バイパスを行きかう車の屋根たちが、
「いいね!いいね!うどんいいね!」
と歓声をあげているように見えるのは、決して錯覚ではない。
「よっしゃあ!うどん行こうぜぇー!」
体の中のぜい肉たちが、そう叫んでいた。