高知にはいくつか有名なチキンナンバンがある。
代表的なのは地元の弁当チェーン『くいしんぼ如月』のチキンナンバン。それと『鳥心』という飲食店のチキンナンバンだ。
その日、なんとなく高知屈指の人気うどん店『やすきや』に行って衝撃を受けた。
<ここにもチキンナンバンがある!>
正確なメニューの記載は『鳥なんばん』とあったが、鳥は英語でチキンだから、やはりこれは紛れもなくチキンナンバンということになる。
『やすきや』のチキンナンバンは、湯気をモクモクと立ち昇らせてやってきた。
かけ出汁の中に、斜め切りにされたネギなどの具材と一緒に、茹でられた鳥が入っている。
「湯加減はいかがですか?」鳥に訊いてみた。
「ちょうどいいよ。飲んでごらん」と鳥は言う。
しかし私は「あいにく、麺から食べる主義なもので…」と鳥の勧めを断り、白い麺を口に運んだ。
瞬間、爆発する、やすきやのアルデンテ。
冷たい麺だとなお弾力が強いが、温かくしても抜群のコシで反応してくる。
<さすがやなぁ、やすきやええわぁ>
食べていると、再び鳥が語りかけてきた。
「さあ、ここで今度こそ出汁を飲んでごらん。美味しいよ」
「じゃあ、遠慮なく」
私は出汁を飲むと見せかけて、鳥を食べた。
残った数切れの鳥がわめく。
「ひどい!不意打ちなんてひどい!」
「ごめんごめん」
微笑んで、謝るそぶりを見せながら、残りの鳥も全部食べた。
鳥はもう喋らない。
それから出汁を全部飲んだ。鳥の風味がして美味しい。
(*汁なしうどんが食べたいけれど、汁を飲みたいんだ!という方に朗報。+70円で汁を付けられるようになったみたいです。おそらく高知初にして全国的にもあまりない画期的システムかと)