券売機の前で少し悩んだ。並盛りにするか、ライトにするか。
時刻は午後二時半を回っている。これが昼ごはんのつもりだが、晩ごはんも数時間後に迫る。
メガ盛りで有名な『どんぶりころころ』。並盛りでも他店の大盛かそれよりも多いくらいの量をほこる。ライトでようやく他店の並盛り程度だ。
<メガ盛りの聖地でメガ盛りを食べないだけにとどまらず、大盛も食べず、並盛りも食べず、ライトだなんて…!許されるか!そんなショボい話が…!>
だが三十代。つっぱることが男のたった一つの勲章、そういう時代は過ぎ去った。
<ライトにしよう…>体重も気になっていた。
食券を買うと自動的に厨房に伝わるシステムなので、そのまま席に座る。中途半端な時間なのに客は案外多い。
しばらく待っていると呼ばれた。
取りに行くと「お箸忘れんと取って行ってね」みたいなことを、店のおばちゃんが言った。優しい。
『牛とじ丼ライト』は、以前ここに来たときに食べた「大盛」と比較すると、やはりライトだった。迫力という点ではどうしても劣る。
しかしこれで良いのだ。午後三時前に馬鹿みたいに食べている場合ではないのだ。お腹を見ながら自分に言い聞かせた。
弁当チェーンの『ほっかほっか亭』にも同名のメニューがあり、ほか弁にごく稀に行った際に毎回注文するのだが、あれよりは幾分薄味だ。
「すべての薄味には必ず理由がある。なぜか薄いなんてことはあり得ない。メガ盛りの聖地でメガ盛り。僕は食べない。こんな時間にメガ盛りを食べるなんて非論理的だからだ」
ライトは食べても食べてもなかなか減らなかった大盛と違い、食べたら食べただけ着実に減っていった。
腹八分。
「じつに健康的だ」
『ガリレオ』の福山雅治みたいに呟いた(結婚おめでとうございます。笑)。