『土佐自然堂』の中で苦悩していた。
<メニューのトップにあり、しかも店の名を冠しているのは『自然堂拉麺』。だがしかし…>
前もって下調べしたところによると『自然堂拉麺』は、あっさりしたスープが特徴らしい。店先の看板の店名の上にも大きく「昔の中華そば」と書かれていたことからも、それが売りであることが伺える。
<だがしかし、今日は昔ながらの中華そばよりも、もっとガツンとくるような濃厚なラーメンが食べたい…>
だったらどうして「自然堂」に来たんだ?「天一」にでも行けよ、という話だが、人は矛盾だらけの生き物なのだ。いちいち矛盾を突き詰めていたらキリがない。
<結構あるな……>
メニューの数は、そこそこ多い。
<ややっ!>
そのとき、いまの自分にピッタリな一品を見つけた。
<『濃厚和節拉麺』……>
名前に「濃厚」と付いている。濃厚じゃないわけがない。
もう迷うことはなかった。すぐさまそれを「大盛」で注文した。
<「和節」って、あんまり聞いたことがない言葉だな。「和節」があるってことは「洋節」もあるのかな>なんて考えた。<読み方は"わぶし"で良かったんだろうか。間違ってたら恥ずかしいな。まあいいけど>
『濃厚和節拉麺』は、土佐あかうしの毛色みたいに茶色かった。
その褐色の湖面の中央に、きざみネギとモヤシが載り、周囲にチャーシューやメンマなどの具材が配置されている。
真っ直ぐに伸びる麺。食べるとブリッ!ブリッッッ!している。食感がいい。香りがフワッと鼻に抜ける。
<魚粉っ!?>
確実に魚粉っぽい香りがする。香りに食欲がそそられる。
普段はそれほど魚粉が好きなわけではない。
けれども、どうしてだろう。今日は魚粉にギャフンと言わされてしまっている。
こんなにも魚粉の香りに魅了され、また魚粉を求めてしまうとは…。猫になった気分だ。にゃーん。
スピッツの曲で「猫になりたい」という曲があったが、すでに吾輩は猫である。
『濃厚和節拉麺』は、完全に"昔ながらの中華そば"ではなく、攻撃的に攻めてくる。一打一打がずっしりと重い。これを注文して良かったと思わせてくれる強さがある。
しかし強いだけでもない。濃厚な強いスープの中に感じる優しい出汁の味わい。
コワモテで無口な男が時折見せる優しさ。
「た~け~う~ち~りき!」とグループ魂も歌っていたように、それは竹内力風味のラーメンだった。
濃厚・竹内力が眉間にシワを寄せて攻めてくる。
私の目前、二センチメートルほどの距離まで顔面を近付けると、力はニヤリと微笑んだ。