駐車場の係員が歩み寄ってきたので、車の窓を開けた。
「本日のご予定は…」
「食事です」と私は答えた。
昨年から今年にかけて、もう何度来たのかわからない、我々貴族御用達のホテル『ザ クラウンパレス新阪急高知』(※鉄板焼きにも行った)
車から降りてホテルの二階に上がり、中華料理店『マンダリンコート』に入った。
「こちらへどうぞ」案内されて、いかにも高級な雰囲気を漂わす椅子に腰をおろす。
メニューを一瞥すると、「ふむ」と声を漏らした。
『マンダリンコート』に来るのは久しぶりだったが、新阪急自体には通い慣れている。私にとって新阪急は別荘みたいなものだ。
<何せ昨年は客として月に、一、二回も来ていたのだからな。はっ。はっ。はっ>
しばらくすると運ばれてきた。
<おおっ>貴族の私も息を呑む美しさだった。
<これが新阪急の『担々麺』…!>
赤褐色の湖面に野菜が浮かぶ。半チャーハンにシュウマイ、サラダに杏仁豆腐にキムチまで付いて破格の千円。一流ホテルでこの価格。圧倒的安さ。
こういうところで食事をすれば、一人当たり福沢諭吉が最低でも一枚は必要になるのが当たり前だ。それなのにたったの千円。野口英世しかいらないではないか。諭吉はおろか、樋口一葉すら出番なし。
私などセレブ過ぎて、財布の中には聖徳太子しかいない。どうしよう。
こんなに安い食べ物があるのかと、いささか驚きながら担々麺を口に運ぶ。
<意外とスープがあっさり系だな>
セレブはセレブでも担々麺に関しては素人なのでよくわからないけれど、担々麺のスープは大きく分けて二種類あるように思う。
例えば、高知市横内の『長江(参考文献)』の担々麺は胡麻感が強く、スープが非常にドロッとしているのだが、対照的に『マンダリンコート』の担々麺はあっさりとした印象のスープだ。
麺を食べると、カプサイシーン!最初はそれほどに感じないのだけれど、時間差でカプサイシーン!辛さがジワリとやってくる。
スープが深い。味わい深い。私の心の闇くらい深い。
<くっ、何が入っているのか見当もつかないぜ>
こういう局面、ついつい麺ばかり食べてしまって最後に手付かずのチャーハンが残る、ということが個人的にありがち。だから今回は意識的に、担々麺、担々麺、担々麺、チャーハン、といったペース配分を心がける。
チャーハン、米がパラッパラ。チャーシューにネギ、ニンジン、ザーサイ(?)など、たくさんの具材が入っている。
そしてまた担々麺に戻る。チャーハンの油を流していくカプサイシーン!
<ピリピリするぜ>
ふと何気なくシュウマイに箸を伸ばす。
<うまっ!>柔らかなその中から汁が溢れだしてくる。このシュウマイの旨味のすべてを含んだような汁だ。<うまっ!>
シュウマイだけ、もっと食べたい欲求に駆られる。
食べ物持ち寄りの飲み会があると、高確率で様々な中華料理店のシュウマイを持参する、隠れシュウマイフェチの私も感動した。非の打ちどころのないシュウマイ。まるで中越典子だ。
箸休めにキムチ。わりと甘い。
しかし担々麺がカプサイシーン!なので、ちょうど良いかもしれない。
デザートに杏仁豆腐。
じつは甘いものが苦手だったりするので躊躇したが、食べてみるとやはり甘かった。でも初恋の味がした。