春風そよぐ4月のこと。
生姜の定植も最盛期を迎えていた。
「おぉの、疲れたちや・・・!」
そんなことを呟きながら、
作業の合間に、私は畑の脇に腰を下ろして休んでいた。
すると、畑の脇を流れる小川の川上から、
「ドンブラコードンブラコー」と山芋が流れてくるではないか。
山芋は私のすぐそばまで流れてきて言った。
「竜ちゃん、たまには山かけうどんも食べてやー!」
それだけ言い残して流れて去ってゆく山芋に、私は叫んだ。
「山芋、高いねーん・・・!」
元来、私は山芋が好きだ。
ウチでも、山芋みたいに
"とろろ"にして食べる「つくね芋」という種の芋を栽培していて、
それをしょっちゅう食べて、食べまくっているために、
「あんまり食べよったら頭からつくね芋のツルが生えてくるぞね!」
などとオバ=アから注意を受けるぐらい好きだ。
けれども、うどん屋さんにおける「山かけうどん」というのは、なかなか微妙だ。
流れてきた山芋に直接言ったように、値段が高い。
多くのお店において、
「山かけうどん」は「肉うどん」や「天ぷらうどん」と大差ない値段であり、
それならば山芋よりも、肉や天ぷらを乗せたほうが良いのではるまいか、
正確には"山芋"ではないにせよ、つくね芋の"とろろ"は家で無料で食べれるのだし・・・。
そういう考えが、山かけを注文する前に、
いつもどうしても働いてしまうのである。
しかしだ。
山芋に直接、「たまには山かけうどんも食べてやー!」
なんて言われた日には、肉や天ぷらを差し置いてでも山芋が乗ったうどん、
「山かけうどん」を積極的に食べるべきではないか、とも思えた。
うどん屋さんは昼営業のみである場合が多い。
つまり、野良仕事を終えた夜に、山芋が乗ったうどんを提供してくれるお店は少ない。
さて、どうしたものかと考えていると、
流れて去っていったはずの山芋が、
「鮭弁当」で有名な「鮭」みたいに、小川を懸命にさかのぼってきて言う。
「源水!源水!野市の源水・・・!」
それだけ言い残して、また山芋は流れていった。
夕暮れ時。
私は山芋の教えに従って、香南市野市町へ車を走らせた。
『土佐うどん源水』
なんと二年ぶりだったりした、野市の源水。
店の中央にロの字型に配された大きなカウンター席があり、
その周りに四人掛けのテーブル席がいくつかある。
私はテーブル席に腰を下ろすと、
そこにあったメニューを開いた。
そして気が付いたのだが、メニューが二年前と変わっていて、
「かけうどん」や「ぶっかけうどん」などの、シンプルなうどんが無くなっている。
客単価を上げる狙いだろうか、メニューに記載されているのは、
あらかじめトッピングが乗ったうどんか、セットメニューばかりである。
よもや、山かけうどんも無くなってはいないかと気を揉んだが、
山かけは、ちゃんとあって、しかも安かった。
<580円っ・・・!>
メニューにあった「土佐ジローの山かけぶっかけ」
それは、高級な土佐ジローの卵を使っていると書かれているにもかかわらず、
580円・・・580円とある・・・!
<ありがたいっ・・・ありがたいっ・・・!>
しかし、メニューには、「特盛」や「大盛」などの記載が無いように見えた。
通常の「並」では、私の胃袋、もとい「俺の宇宙」は満たせないので、
店のオバチャンを超音波で呼び寄せて訊いてみた。
「これ・・・うどんを二玉にするとか三玉にするとか出来ないですか・・・?」
「大盛、特盛、出来ますよ・・・!」
オバチャンの返答を受けて、私は低い声で武士っぽく言った。
「では・・・拙者・・・特盛で・・・!」
『土佐ジローの山かけぶっかけ(特盛)』
数分ののちに現れたそれは、"目玉おやじ"のように美しく、
今にも喋り始めそうな勢いさえ感じる。
「オイ!鬼太郎!」
麺の温度に驚いた。
<冷たい・・・キンキンに冷えてやがるっ・・・!>
冷たい・・・冷たい・・・!冷たい・・・!
舌が凍って固まってしまいそうなほどの・・・!
圧倒的氷結っ・・・!!!!
今までの人生で食べたことが無いような冷温麺。
かつてこれほどまでに麺を冷やしたうどん屋さんがあっただろうか。
アイスクリームよりも冷たいかもしれない。
歯に染みるほどに冷たい。
<お口の中が氷河期だぜ・・・!>
どうやってこんなに冷やしたんだと、
食べながら考え込んでしまう次元の冷たさだった。
『天盛りうどん(大盛)』
口から冷気を吐きながら、
「歩く!冷房・・・!」などと言いながら帰った。
◆ 土佐うどん源水
(高知県香南市野市町東野1586−1 )
営業時間/11時~15時・17時~20時30分(データが古いので要注意)
定休日/無
営業形態/一般店
駐車場/36台
(土佐ジローの山かけぶっかけ580円、天盛りうどん720円)
『土佐うどん源水の場所』はココ・・・!