昼下がり。
私は高知市内で用事を済ませて家に帰っていた。
すると、着信音が突然鳴り響くのが嫌いで、
常時、マナーモードにしている携帯が、助手席で振動する音が聞こえた。
<ちょっと待って・・・切らないで・・・!>
願いながら車を停めた。
大体、いつも、かかってきては切れてしまう運転中の振動音が、
このときは長く鳴り続けて停車するまで切れなかった。
電話の主はオバ=アだった。
田舎の人は、全員がそうではないかもしれないが、
多くの場合において、電話を、果てもなく長く鳴らす。
大抵、都会より広い田舎の家で、
年寄りが「よっこらせ、よっこらせ」と歩いてきて電話に出られるまでの時間を、
よく理解しているからだ。
オバ=アは言った。
「おじいさんの腹の調子が悪ぅてよ、
ほんで、お昼はお粥で済まいたき、アンタ、なんでもえぇき外で食べてきいやぁ」
私は昼食がお粥でもまったく問題がないので、
私の分のお粥も作っておいてくれたら良かったのだけれど、
オバ=アの口ぶりでは、帰っても私のお粥はもちろん、食べる物自体が無さそうである。
その電話に出るため、車を停めたのは、
偶然にも、南国市のセルフうどん屋さん「源水」の真ん前だった。
私は、これはナニカの運命ではあるまいか、と思った。
運命なんか私は信じないけれど、ではなぜ南国の源水の前でオバ=アからの電話が鳴って、
今現在、唐突に昼食難民と化しているのかと考えてもみると、
やはり運命なのではないか、ここでうどんを食べることが運命なのではないか、という気がした。
あの日、山芋が私を野市の源水に誘ったように、
今度はナニカ見えないチカラが私を南国源水に向かわそうとしている。
南国源水にも数年入っていない。
ここで流れに身を委ねて南国源水のその白いうどんに絡め取られても良いように思えた・・・。
『うどん源水 南国』
店の外壁に描かれた、うどんを打つチョンマゲおじさん。
少し見ない間に、その腕の筋肉は確実にひと回り大きくなっていた。
チョンマゲおじさんは、日々、成長しているのである。
(後編へ続く・・・!)
『後編を読む』