子供のころのボクにとって、ラーメンは憧れだった……。
トンカツは……ヒーローだった……。
憧れとヒーローが、ひとつの器で共演する姿を初めて見たあの日。幼かったボクの心は揺れた……。
まるで思春期にした初めての恋のように……。
『ラーメンの豚太郎 介良店』
(とんたろう けらてん)
とにかく、なんだか「みそカツラーメン」が食べたくて、
みそカツラーメンといえば「豚太郎」だという概念から、
数年ぶりに「豚太郎介良店」の戸を開けた。
もちろん「介良店」じゃなくても、他にも豚太郎はある。
家から「介良店」に辿り着くまでにも、いくつかの豚太郎の近辺を通ってきたし、
「介良店」は私の家からいたって遠い。
それなのに、わざわざ「介良店」へ行ったのには・・・何の理由もない。
ただなんとなく行ったのだ。
私の人生には、
「何の意味もないこと」や「何の理由もないこと」が、
すこぶるたくさん存在する。
毎日、「もう!どうにでもなぁれ!」と呟きながら生きている。
「みそカツラーメンが食べたくてムシャクシャしていた!
豚太郎ならどこでも良かった・・・!」
そんな気持ちで訪れた「豚太郎介良店」なのだけれど、
「道を歩けば豚太郎に当たる」と言われるほど豚太郎群雄割拠の高知県において、
ここでこうして巡り合って戸と手で触れ合っている、介良店と私。
YES!これは運命!間違いない!
<キミに触れたのに理由なんてないとボクは言った・・・!
しかしそれはひとつの恋の始まりだったのかもしれないね・・・!>
若い男性の一人客が多い店内。
私は右手を突き上げて、挙手した。
道路を横断したいわけでもなければ、
タクシーを止めたいわけでもない。
遥か彼方の厨房にいる店員さんを、
呼ぼうとしているのである・・・!
<来いっ・・・来いっ・・・!
店員さん・・・!来いっ・・・!>
すると女性の店員さんが歩み寄ってくる・・・!
「ご注文、お決まりですか?」
<あぁっ・・・決まったぜバッチリ・・・!>
私は口を開いたり閉じたりしながら、
いっこく堂が持っている腹話術人形みたいにして発声した。
「みそカツラーメン大盛・・・!
それを・・・Aセットでっ・・・!」
Aセットとは・・・!
つまり!こういうことっ・・・!
『みそカツラーメン大盛 Aセット』
<ふはっ・・・ふははははははっ・・・!>
Aセット・・・それは・・・!
天下無双の半チャンセットっ・・・!
褐色の湖面に鎮座する・・・!
豚の豚による豚のカツっ・・・!
いわゆるトンカツ!ポークカツっ・・・!
これがみそカツラーメン本来の形っ・・・!
私は、そのチャーハンを見るなり発した。
「丸っ・・・!」
『豚坦麺』
(とんたんめん)
メニューには、「豚坦麺(タンタン麺)」と記してあった。
「豚」という漢字の上には、「とん」と、わざわざ仮名がふられていた。
注文時、私は「とんたんめん!」と発声した。
なぜだかとても恥ずかしかったにも関わらずだ。
<豚太郎介良店では・・・!
タンタン麺のことを「豚坦麺」と呼ぶのか・・・!
ならば郷に入れば郷に従うべき・・・!>
と考えたからだ。
<ふり仮名までふられてんだ・・・!
客の側としても・・・期待に応えなければ・・・!>
と、私も気を使ったのだ。
なぜだかとても恥ずかしかったにも関わらずだ。
けれども、しかし注文を取りにきてくれた女性店員さんは、
「たんたんめんですねっ☆」と何のためらいもなく復唱した。
その瞬間、私は悟った。
世の中、不条理っ・・・!
『ぎょうざ』
みそカツラーメンにチャーハンに、ぎょうざ。
いわば、ご老公に助さんに、格さん。
フルコース、堪能して家路に着いた。
◆ ラーメンの豚太郎 介良店
(高知県高知市介良乙1060-6)
営業時間/11時~21時
定休日/木曜日
駐車場/有
(みそカツラーメン780円、Aセット+300円、豚坦麺700円、ぎょうざ350円など、大盛100円増)