『EP8を読む』
土産物売り場を通り抜けて、奥の飲食スペースへ。
広い窓に向かって設置されたテーブル席に腰を下ろす。
眼下には、白くて大きな岩がゴロゴロ転がった渓流が流れている。
<紙一重・・・危機的な状況を潜り抜けた・・・>
グラスの水を一口飲む。入れられた氷が涼しい音を立てる。<あのガソリンスタンドがこの世に存在しなかったら・・・詰んでいた・・・>
水が旨い。
<おかげで俺は・・・!>
と思った。<やり直せる・・・!>
『道の駅・木の香』に着いたとき・・・。
僕はヘトヘトだった。
メニューに目をやる。
念願の「キージーカレー」はスグに見つけられた。
「キージ(?)カレー」というのが正式名称のようだ。
キジを使ったカレーライスは「キージーカレー」の他に、「玉ねぎまるごと!きじカレーライス」というのもあった。
けれども僕は「キージーカレー」のほうが、キジ肉たっぷり!であるのを、あらかじめ調べて知っていたので「キージーカレー」を注文することにした。
いっぱいキジを食べないと、大きくなれない。
数分後―――。
念願の「キージーカレー」を男性の店員さんが持って来てくれる。
<わぁー!キージー!テンコ盛り・・・!>
ソースポットの限界まで盛られたキージーカレーに食欲が湧く。<キジ肉のミンチがいっぱい入ってるー!>
白いごはんの上には、揚げられたレンコンやジャガイモなどが載る。
<手が込んでるぞ・・・!>
と僕は思う。<ご家庭ではマネできない・・・!少なくとも俺はここまでできない!しようとも思わない・・・!>
ごはんの量に対して、カレーの量のほうが明らかに多い。
<こんなにたくさんのキージーを・・・!>
僕はごはんに「キージー」をたっぷりかける。<ありがたいっ・・・!>
スプーンですくって口へ運ぶ。
風を切り裂き・・・!
飛んでくる!キジの全速強襲・・・!
<肉の味が強い・・・!>
モグモグ食べる。噛めば噛むほど味が出る。<結構シッカリしてる・・・!>
俺よりシッカリしてる・・・!
牛や通常の鶏肉とも違う、キジ肉独特の香りが若干する。
でも、その香りがカレーの香りと良い具合に調和している。
これに密かにサラダも付いていて、さらには、あとからコーヒーまでやってくる予定だ。
なんともお得なセットである。
しかし・・・それにしても・・・。
窓の外に広がる圧倒的山岳地帯を見ながら、僕は考えた。
<せっかくここまできたんだ・・・>
この緑の山々の中にキジがいるのだろうか。
居たとしてもキジも緑だから見分けが付かないかもしれない。保護色ってやつだ。
もういっちょキジ・・・。
イッておいたほうが良くないか・・・?
いったいどういうわけだろう。
気が付いたときには、キジをアンコールしていた。
「きじラーメン」と・・・。
「きじカレーライス」・・・。
それに「唐揚げ」と「サラダ」が付いた大変にお得なセット。
その名も・・・!
『どうぞ!きじセット』
<キージーカレーを食べた今・・・!きじカレーライスも食べるのは、むしろ自然な流れ・・・!>
それに僕は麺野郎。<きじラーメンを食べずに帰るなんて、そんな水くせぇこたぁしねぇっ・・・!>
『道の駅・木の香』に「きじラーメン」があることなんて、ここに来る何ヶ月も前から知っていた。
「キージーカレー」以降の流れなど、すべて茶番。
最初から、全部食べる気だった。
いっぱいキジを食べて、大きくなります。
「きじラーメン」から先に食べる。
<薄いけど濃いような・・・!>
ポトフみたいな味がするスープ。<洋風・・・!>
それは白っぽい色した極細麺によく絡む。
スープの中にはキジ肉の団子(つくね)も浮かんでいる。
続けて「きじカレーライス」も食べる。
これだけ次から次へとキジを食べていると、徐々に自分がキジそのものになりつつあるのを感じてくる。
「唐揚げ」は、さすがにニワトリのものだったけれど、それでも鳥類なので満足だ。
それに柔らかくジューシーで美味しかった。
すべてを平らげた頃―――。
わざわざ伝えなくても、「コーヒー」が絶妙のタイミングでやってきた。コミュ障にはありがたい。
温かいコーヒーをすする。
<予想外にいろいろあったな・・・>
すすりながら回想する。<ガス欠危機一髪!が余計だったけど、それでもギリギリセーフだったから、いい思い出・・・とは言えないかもしれないけど・・・まあまあの思い出にはなったかな・・・うどん並盛ぐらいの・・・>
窓の外に見える山の緑は、徐々に暗闇に包まれようとしている。
今頃ウサギ島のウサギたちは元気に跳び回っているのだろうか。ウサギは夜行性だから。
ウサギ日和の一日が暮れていく。
穏やかにゆっくりと暮れていく。
(ウサギ日和・完)
『ウサギ日和を1話目から読む』