2014年9月に訪れた際の情報です。ご注意ください。
『ゆすはらグルメまつり』の会場をあとにして、車を走らせ帰路に着く。
すると間もなく大粒の雨が降り始めた。それに加えて霧が立ち込めていて視界が悪い。慎重にアクセルを踏んでハンドルを操作する。
「雲の上の町ゆすはら、今日は霧の中の町だね」
梼原の町を足早に離れたのには、意図があった。
「俺はおでんが食べたい!」
帰り道にある『道の駅・布施ヶ坂(ふせがさか)』の知る人ぞ知る名物、おでん。中でもコンニャクのおでんが絶品なのだ。それを是が非でも食べて帰りたかった。
(過去記事に上げています!→ 「道の駅 布施ヶ坂 コンニャクおでん」)
「グルメまつりで売り切れ続出だった時点で、言っているのさ…。グルメの神が、俺に布施ヶ坂でコンニャクを食べて帰れとっ…!」
運転しながら自然に歌まで飛び出した。
「コンニャク♪コンニャク♪コンニャクばんざいー♪」
スーパーマーケットでお馴染みの、「惣菜♪惣菜♪惣菜ばんざいー♪」のメロディーでだ。
大雨の中、『道の駅・布施ヶ坂』に到着。
しかし駐車場に車を滑り込ませた瞬間、愕然とした。
「おでん!閉まってる!」
このようなことがあっていいのだろうか。グルメまつりでは、ほぼすべて売り切れ。布施ヶ坂では、おでん閉まってる。
「どうして…どうして…おでん屋が閉まってんだよっ!」
梼原へ行く際に見たときは開いていた。なのに、いまは閉まっている。
いったいどういうわけだろう。食べたいものが、ことごとく食べられない。
小さい子だったら号泣する局面だろう。だが私は泣かない。三十二歳だから。
おでん屋は閉まっていても、布施ヶ坂本体は開いている。
軒先でオレンジ色ののぼりが揺れている。「角煮らーめん」と書かれている。
角煮には布施ヶ坂がある津野町の牛、津野山牛が使われているらしい。
「これ食べて帰る!俺これ食べて帰るもん!!」
グルメまつりに振られ、コンニャクに振られ、傷心の中で見つけたホームランボール。
私は『道の駅・布施ヶ坂』の店内に駆け込んだ。
日曜日とはいえ午後五時前。食事するには中途半端な時間。しかし近隣で『ゆすはらグルメまつり』が開催されていた効果だろうか。飲食スペースには数組の先客がいた。
テーブル席に腰をおろし、メニューを開いた私は小声で叫んだ。
「うどんもあるのかっ…!」
『四万十うどん』に『清流うどん』さらには普通の『うどん』に『カレーうどん』や『ざるうどん』まである。心が揺らいだ。
「すごいなぁ!すごいなぁ!これ!」
さらに私は再び小声で叫んだ。
「そばもあるのかっ!」
困ったことになった。イケ麺パラダイスだ。とくに『四万十うどん』が問題だ。
「川のりを練り込んだうどん!強いなぁ!」
「どうだい…この攻撃に勝てるかな…!」謎の皇帝の声がした。
だが私は当初から食べようとしていた『角煮ラーメン』が、一品でメニューを開いて最初の一ページを席巻していることを重視。うどんに流れかかっていた心を繋ぎ止めた。
「黒っ…!」
独特の色をした『角煮ラーメン』のスープ。焦がしニンニクが大量に浮かんでいる。
すっかり津野町名物になった「ほうじ茶大福」も付いているが、とりあえず無視。いまはラーメンを倒すべきときだ。
「かかってこい!角煮ラーメン…!」
ブォーンッッッ…!
スープから麺を引き上げた瞬間、立ち込めるニンニクの香り。今夜は眠れそうにないが、なんとか持ち堪えて肉に箸を伸ばす。
津野山牛の角煮。これまた強そうだ。
「柔らかい…!」と一口目は思ったけれど、そこからは要潤。
柔らかい。
それだけ
じゃない
津野山牛。
柔らかい中に、噛み応えがシッカリある。噛み応えがあるけれども、柔らかい。
「嬉しいです!」よくわからないが敬語になった。
自分でもわかるほど、強いニンニクの香りを口から吐き出しながら、『ほうじ茶大福』を頬張る。初恋みたいに甘い。
ラーメンを食べたら、ご飯も食べたくなった。
「炭水化物には炭水化物だ…!お好み焼に白ご飯!焼そばに白ご飯!ラーメンには、たまごかけご飯!」
というわけで、ついでに『たまごかけご飯』も食べる。四万十川の源流の水で育った放し飼いの鳥の卵を使用しているそうだ。
「さすがは放し飼いにされているだけある」私はわかったような顔をして頷いた。
開放的な味がした。