*川村ダイニングは、その後に閉店されました。
『川村ダイニング』に行くのは二度目だった。初回はオープン当初(ブログ未掲載)。
当時は唐揚げ推しの店という印象が強かったのだけれど、近況『ビフめし』なるメニューが人気のようだ。
メディアで見かけたが、ごはんの上に何枚ものローストビーフが載り、中央に温泉卵が鎮座するその様は圧巻。京都の『八坂神社』にて「ただの寺やん(神社だけど)」と言い放った私をも唸らせる美しさがあった。
<ビフめし、ちょー食べてえー!>
意気揚々と乗り込んだ『川村ダイニング』
だがメニューを見たとき事件起きる。
<オムライス、美味しそうやん!>
正式名称を『デミ玉ライス』というそれは私の心、イッツマイハートを揺らした。
<ビフめしもいいけど、オムライスもええよな。ビフめし推しや言うき、ビフめし食べるつもりやったけど、わりといま、肉よりオムライスの気分かな>
揺れ過ぎて軽く船酔いするほど、揺れる心の臓。
毛髪が数本抜け落ちるほど悩んで決めた。
<初志貫徹…しま…………せんっ!>
ビフめし案は消し飛んだ。
<信念…?何それ…?我は信長…!食べたいものを食べるのじゃ…!はっはっはっ!>
先にサラダとスープが来た。
<野菜がめっちゃシャキシャキしてる>
ゴチャゴチャ言わない。竹を割ったような性格の野菜たちだ。
赤と黄のパプリカが"あの"形で配置されている。そう、ウルトラマンがスペシウム光線を放つときのあのポーズ、あの形だ。
スープを一口。驚いた。
<ようコンソメの出汁がでちゅうわ!>
普段、昆布出汁、カツオ出汁、イリコ出汁で慣らされている舌には新鮮だった。
家で自力でオムライスを作ろうとすると、ついモタモタしてしまって出来上がりに二年くらいかかるのだけれど、『川村ダイニング』、さすがはプロ。
サラダを食べ終わる寸前、皿の中に黄色のパプリカしか残っていない絶妙のタイミングで『デミ玉ライス』が登場した。
「うおお…!」往年の吉田栄作のCMみたいな声が出たが、CMのことをいったいどれくらいの人が覚えているのかはわからない。
見るからにトロトロの玉子。空前絶後の半熟具合。上に肉、ビーフが載る。周りにはデミグラスソースが褐色の海を広げている。
その味は食べたことがないようなものだった。
<コイツ…ただのデミグラスソースじゃねえ…!!>
「わしは只者じゃない」「わしは信長じゃ」。デミが、デミ長が、そう主張してくる。
たしかに、よくあるデミグラスソースよりも断然コクがある。何だろうこのコクは。コク士無双か、コク土交通省か。わからない。わからないがしかし、美味い。お世辞抜きに美味い。口を開けばお世辞しか出ないこの口を持ってしても、本音で言える、デリッシャス。
上に載った肉がまた柔道。
柔らの道。
柔らかい。
初代推しメンだったはずで、いまもきっと推しているに違いない唐揚げが、+160円で二個付けられるというので付けた。それをデミ玉の合間につまむ。
<味が……エスプレッソ…!>
つまり濃い。しかし濃いくらいが外食ではちょうどよく感じる。アメリカンもいいけれど、この局面はやはりエスプレッソだ。
食べ終えて辺りを見渡す。
メニューや、入口のホワイトボードにも「当店一番人気!」と書かれていたビフめしの実物を一目見ておきたい。
ほぼ満席の店内。
<ありゃ、誰もビフめし食べてない>