子供の頃、亡くなった曾祖母が作ってくれていたカレーには、ちくわが入っていた。そのことを大人になってから知人に話した。
「カレーにちくわ!?おかしいろ…!」知人は予想通りの返答をした。カレーにちくわが一般的ではないことくらいは私も成長の過程で気が付いている。
「ええー!カレーにちくわ入れるろう!入れたほうが絶対美味しいちや!」私は話が盛り上がるように、計算してそう言った。だが次の瞬間、知人の口から出た言葉に絶句した。
「カレーにちくわって……
普通はスマキやろっ!」
しかも真顔でそう言うので、私も神妙な面持ちで頷きながら返した。
「そうやね。まあ普通はスマキやね」
そんな嘘エピソードも交えつつ(ちくわの下りは本当)、今日も元気にうどんを食べに行くのであった!ぶーぶぶーん。
少なくとも私の中では高知の名店だと思っている『麺房まつみ』。高知市塩田町にある。
カウンターのみ数席。それほど広くはない店内。入店して一番奥の席に陣取る。
<正面にカウンター。右に壁…!なかなかの隅っこ感…!加えてなかなかの居心地!>
端正な書体で記載されたメニューを眺める。
<嘘エピソードを披露した手前…この局面…当然カレーうどん…!と思わせておいて、天ぷらうどん!なんてことも可能。しかしそれでは俺はいったい何をやってるんだということになる>
この局面、わりと素直。
カレーうどんを大盛で注文。
カレーを………!
カレーをくださいっ………!!
うわぁ!なんて楽しそうなカレーなんだ……!
思わず最新のテレビゲームを買ってもらったときのようハシャいでしまう。
<大抵の人には俺の言っていることの意味がわからないかもしれない…!だがうどんを食べ過ぎてうどんの好みが三周くらいしちゃった人にならきっとわかる…!>
煮えたぎり方がヤバいね!!!
誰が見ても熱そう。
そのためか、小皿が添えられてきた。
<優しいお心遣い…!>当然言う。<ありがたいっ……!>
だがしかし、これまでに何千、何万回と淀みなく飲んだ毎晩の焼酎お湯割り。それで鍛えた私の舌に小皿など必要なかった。
<熱いものが飲めないようじゃ、真の酒飲みにはなれねぇ。口を焼くほど煮えたぎった焼酎ってのも、また乙なものよ……!!>
かつてどこかの貴婦人が訊いてきた。夢の中で。
「あなた猫舌?」
「いいえ、むしろ犬舌です」
戌年ですしねっ!
ニャン♪ニャン♪ニャニャン♪ニャン♪ニャン♪ニャニャン♪泣いてばかりいる子猫ちゃん…♪いっぬっのぉー♪おまわりさん…!がっ!
食べちゃうぞ☆(超低い声)
IZA!カレーうどんちゃんを食べちゃう!!!
<おおおっ……トロっとしたカレーに、プニップニのうどん……!麺も出汁も…全体的に飲める感触……!>
うまっ…!!
<こりゃあ犬の次は馬が来ちゃったんじゃないか!だいいち、馬が来たにもほどがあって馬群っ!もはや馬だらけ!>
そんな雰囲気…!
<カレーと出汁の混ざり具合…融合の仕方がまたすごい……!昔あった超合金の合体ロボ…あるいは新幹線の連結みたいにくっ付いている…!!>
元々旨い出汁に旨いカレーが繋がって、もうまったく隙がない…!
<でも新幹線の車内で食べると、カレーの香りが充満しちゃって、たぶん嫌な顔をされるだろう。そしてコワモテがにじり寄ってくるかもしれない!だがそんなときは一本のうどんを差し出しながら、言えばいい!>
「おおお…お一ついかがですか?」
すると………!
「なかなか旨いやんニーちゃん。これどこのうどんや」
「こ……高知です」
「高知け。讃岐以外にもこんな旨いうどんあるんけぇ?わしゃぁ、びっくりぽんや」
「びっくりがぽんして、びっくりぽんですね!」
「そやぁ、びっくりぽんや!」
はい、平和っ!
一本のうどんは人類を救うと、私は思う。
<ただ…カレーうどんだけじゃ物足りねぇな!>
さらに『柚庵うどん』に手を伸ばす。
<柚子の香りがプンプンするぜ……!>
湯だめの状態で出された麺。それを大量の柚子皮が沈んだつけ汁に浸けて食べる。
<芳醇…!上質のビールのように香りと旨味が、器の中で宝塚歌劇団みたいに共演している…!>
この辺まで食べ進んでくると、もはや自分でも何を言っているのかわからない。
うどんは時に人を狂わせる。
うどん、それはとても危険な白い粉。
だから前から言ってんじゃん!
あぶねぇんだよ!うどんはよお…!!
不確実な世界の中で、わかっているのは、ただ一つ。
うどんを食べている瞬間は、絶頂っ…!!ということである。
うどんにハマって人生が狂わなかった人は、あまりいない。