「どれぐらい切る?」
「ん・・・まぁ・・・適当に・・・」
「じゃあ前回切ったのと、おんなじぐらいでえい?」
「うんうん」
私が髪を切る時のオーダーの仕方は、
いつもこんな調子。
それでも大体私のイメージ通りに切ってくれるから、
もしかすると、人の心を読む特殊な能力を持っているのかもしれない。
極度の人見知りである竜一。
高知市にあるこの散髪屋には、
もう10年も通っているのだけれど、
未だに、まともな会話を交わしたことが無い。
「竜一君、最近どう?忙しい?」
「ん~まぁ、そこそこ・・・!」
沈黙。
そんな、シンプルなやり取りを、
延々と繰り返す、付かず離れずの関係である。
早く入って来い・・・!
閉ざされた・・・俺の心の内側に・・・!
髪を切ったあと、
「折角、市内に来たのだから、
何処か近くのうどん屋さんに行ってみよう!」
そんな風に思って、私にしか使えない検索エンジン、
『Ryugle(リューグル)』で、脳内検索を掛けた。
すると上位に、『鄙屋(ひなや)』がHIT。
俺の脳が欲している・・・!
鄙屋・・・あの可燐なる細麺を・・・!
約10ヶ月ぶり。
来たぜ・・・農村から・・・!
『麺 鄙屋』
<【鄙屋リンク・・・!】 「温玉鶏そぼろぶっかけ」の回、「和風カレーうどん」の回>
前回、来た時と同じぐらいの時間。
13時半ぐらいに、戸を引いた。
小さな店内には、
相変わらず、たくさんのお客さんが入っている。
立地の関係だろう。
スーツに身を包んだ女性、作業着を着たおじさん。
主に、仕事の合間に昼食を取りに来た風な人が多い。
店の真ん中辺りにある、
壁に向かって設けられたカウンター席に座った。
「すみません、温玉とご飯が売り切れてしまいまして・・・!」
前回来た時にもいた気がする、
店のお姉さんが、そう言う。
「前も牛肉が無いとか言っていたのに、
いつもギリギリの食材でやっているのね・・・!」
内心、少し残念に思ったけれど、
仕方がない部分もあるのは理解できる。
なにせ、高知市南はりまや町2丁目、
『高知市文化プラザかるぽーと』の西向かいという、一等地。
そんな好立地にあって、
最安値の『葱うどん』は、たったの280円。
他のメニューも、抑えられた価格だし、
これは相当の努力をしないと実現できない価格のはずである。
「じゃあ、肉玉ぶっかけ・・・!」
「肉玉ぶっかけ・・・!
温玉が売り切れてるんで・・・!」
しまった・・・!
肉玉ぶっかけの"玉"は・・・!
生卵じゃなかったか・・・!
肉玉ぶっかけがダメ・・・!
だとすると・・・!
何にすればいい・・・!
優柔不断な男。
代替案が浮かばない。
「肉ぶっかけなら出来ますけど・・・!」
お姉さん・・・!
それだ・・・!
「あんちゃん・・・!
ここに打てば・・・大手だわよ・・・!」
そう指し示されたかのようだった。
「じゃあ・・・肉ぶっかけ大盛で・・・!」
待っているあいだにも、
ピークの時間帯は越えているはずなのに、
次々にお客さんが来る。
だけど、上手い具合に、
来る人、帰る人。
バランス良く回転して、店内を潤す。
『肉ぶっかけ(大盛)』
丁寧に盛り付けられた具。
この可愛らしさは、正義。
細めの麺。
弾力、向上。
元々、麺の細さの割りに強反発。
そう感じていたのだけれど、
更に、その度合い、
強めて、ゴリゴリ。
表面と芯との弾力差は、あまり無い。
ぶっかけ出汁は、
やはり自分の好みより、かなり甘い。
しかし、この甘さが、
鄙屋らしさ。
こういう各店独特の個性を体感できるのが、
手打ちうどんの醍醐味。
個性は、強ければ強いほど、面白い。
7割ほどの量を食べたところで、
普段は入れないレモンを、あえて搾り入れる。
すると、甘さ、
ギュッと引き締まって、
ガラリと変わる。
来たっ・・・!
これが鄙屋の真骨頂・・・!
変化するぶっかけ出汁・・・!
レモンや柚子など、
柑橘の汁を入れると味が変わるのは、
どこの店のぶっかけ出汁でも同じ。
けれど、鄙屋のぶっかけ出汁は、
独特の強い甘さとレモンの酸味が混じり合った時の変化の幅が、
他店よりも大きく、味が一変するのだ。
その急激な変化幅は、
言うなれば、全盛期の"大魔神・佐々木"のフォークボール。
その特性を利用して、
途中からレモンを入れることで、一杯で二種類の味を楽しめる。
鄙屋は、二度楽しめるっ・・・!
ホロホロとした歯触りの牛肉。
麺のゴリゴリとした食感と良く合っている。
鄙屋の鄙屋らしさ。
それに私は心をギュッと捕らえられて、思うのだった。
手打ちうどんは、面白い・・・!
◆ 麺 鄙屋(ひなや)
高知市南はりまや町2丁目
営業時間/11時30分~麺切れまで
定休日/月曜日
駐車場/無(近くのファミマの裏に有料駐車場が有ります)
(肉ぶっかけ550円、葱うどん280円、大盛100増など)
『鄙屋(ひなや)』の場所はココ!