9月上旬、雨が強く降る日だった。
降りしきる雨の中、混み合う国道55号線を高知市へ向けて突っ走る。
この時期、未訪の店を巡る連戦が続いていた。
行ったことが無い店に行くときは、
いつもワクワクとドキドキ。
期待と不安が心中で複雑に入り混じる。
<どんな麺なんだろう・・・!
メニュー・・・なんか面白いのあるかなぁ・・・!
店主が安岡力也みたいなコワモテだったら・・・!>
コンマ2秒で逃げな・・・!
あかーんっ・・・!
東方から進行する竜一。
たくさんの車や人が行き交い、
けたたましい音を立てて路面電車が進む、
山では考えられないほどに賑やかな通りを、超高級軽自動車で走る。
<まっこと土佐のお城下は・・・いつ来ても賑やかぜよっ・・・!
近頃ここいらにうどん屋が出来たいうて聞いたけんど・・・!
さて・・・!何処じゃろうねゃ・・・!>
お城下だけあって、思わず龍馬口調でぜよぜよ言いながら、
西へ西へと進んでいると、『旭駅前通』という名の電停を発見。
<たしか・・・この電停を左へ曲がるんだったな・・・!>
左折してスグだった。
目立つ黄色い看板が目に入る。
<おっ・・・あった・・・あった・・・!
なかなか可愛らしいお店だなぁ・・・!>
駐車場の位置は事前に知っていたから、
一旦、店前を通り過ぎて、店の南西側にある駐車場に、
華麗なるテクニックで車を停めて、向かった。
『ふた葉』
店前に、"うどん"の文字は無い。
私がインターネット界に巣くうサイバー農民じゃなかったら、
ここがうどん屋だとは、恐らく気が付かない。
<なにか狙いがあって・・・ワザとそうしてるのかなぁ・・・!>
依然として大粒の雨が落ちる。
雨が降っても傘を持つ習慣が無い私は、
雨に背中を押されるようにして、ドアの向こう側へと全力疾走で駆け込んだ。
「いらっしゃいませ・・・!」
小さいけれど窮屈さを感じるような造りではなく、
穏やかな照明に照らされて、明るく綺麗な店内。
男性店主が一人でやられていると、なぜか勝手に思っていたのだけれど、
行った日は、奥様だろうか、女性の方と二人で切り盛りされているようだった。
コソコソと席に座る・・・。
オープン当初はメニューが少ないという話も聞かれたが、
それからいくつか増やされたようで、カレーうどんなどもあった。
女将さんが注文を取りに来てくれる。
ぶっかけ系のメニューと若干迷ったけれど、
やはりまだまだ夏なので、"アレ"を注文した。
まぁ、"アレ"とは『ひやかけ』である。
「10分ほどお待ちいただけますか・・・?」
<おおぅ・・・!きたぁ・・・!>
10分待ち宣言っ・・・!
<待てと言われるパターン・・・!
それすなわち・・・茹で置きではないパターン・・・!
やったぁ・・・来るぞ・・・来るぞっ・・・!>
茹で立て・・・!
出来立てのホヤっホヤがっ・・・!
暫し待つ竜一。
しかし、心中では若干懸念していることがあった。
<ひやかけには・・・天ぷらが合う・・・!
だけどメニューにトッピング・・・天ぷら類の項目はねぇ・・・!
くっ・・・!残念・・・天ぷら・・・ねぇのか・・・!>
が・・・!
その時・・・見つける・・・!
<うおおぉぉぉぉぉ・・・!
なんかある・・・カウンターの上に・・・なんかある・・・!>
見えた・・・!
M78星雲の彼方にっ・・・!
寿司と並び評される・・・!
日本料理の代名詞・・・!
TENPURA・・・!!
天麩羅の星っ・・・!
『かき揚げ & ちく天』
なんと・・・!
一皿たったの80円・・・!
「このかき揚げ・・・!これに今なら・・・!
コチラのお出かけにも便利な・・・携帯用ちく天をお付けします・・・!」
「えっ・・・!いいんですか・・・!
かき揚げ80円だけでも充分お得なのに・・・!
ちく天まで付いて・・・80円・・・!?」
「はいっ・・・任せてくださいっ・・・!
ふた葉だからこそ出来る圧倒的価格でございます・・・!」
『かしわ天』
ゲソ天かと思って取って来たそれは、かしわ天だった。
かしわがふっくらとしていて、美味しい。
これも80円・・・!
食べるコチラが申し訳なく思うほどの安さである。
オープンしたばかりとあって、テーブルも綺麗。
渡辺篤史だったら、
このテーブルを撫で回しながら感想を述べると思う。
「いやぁぁぁ・・・この木目が素晴らしいですねぇぇぇぇぇ・・・!
なるほどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!」
そんな他愛も無い空想に耽っていると、
女将さんが運んできてくれた、日本の夏を・・・。
「日本の夏、ひやかけの夏。」
第五弾・・・!
ふた葉の陣・・・!!
『冷やしかけうどん(大盛)』
黄金色に輝く出汁。
その中に麺が沈み、上に刻んだネギを乗せただけのシンプルな構成。
<こりゃぁ・・・どう考えても・・・!
麺と出汁の力量がモロに出る・・・!>
誤魔化し無しの勝負っ・・・!
真っ向勝負っ・・・!
くにゅり、くにゅり。
噛むたびに、麺が反応する。
麺の浅い部分に弾力があって、
空気をたくさん入れた自転車のタイヤみたいに、瞬時にアゴを弾き返す。
<なんかこれ・・・出汁との絡みが良いのかな・・・!
麺に出汁が纏わりつくようにして・・・!
麺と出汁の味が同時に来るっ・・・!>
出汁は魚の香りが強く、それが好みを分けるかもしれないけれど、
それこそが、ふた葉のひやかけ出汁の個性だと捉えることも出来る。
『かけうどん(大盛)』
ひやかけとの見た目の違い。
・・・!は、
わかんねぇよ・・・!
俺にはわかんねぇっ・・・!
だが、まったく同じに見える容姿とは裏腹に、
麺と出汁の雰囲気は大きく異なる。
ひやかけよりも幾分弾力の位置が深くなって、
そこに辿り着くまでが柔らかく感じる麺。
ひやかけでは強く感じた出汁の香りも、
温かいかけでは、ひやかけほど強く感じない。
出汁の濃さそのものも、
ひやかけのほうが濃く、温かいかけのほうが薄く感じる。
ともかく、すべてはいい加減な味覚を持つ私の主観であるが、
私は、温と冷、それぞれでまったく違う印象を受けた。
食べ終えて、入口付近。
レジで女将さんに代金を支払う。
仰天。
驚いた。
かけ300円 + 大盛100円
ひやかけ300円 + 大盛100円
天ぷら80円 × 2皿
合計960円。
1000円出したらおつりが来た。
高知市の中心部でこの価格。
すごい、とても、非常に、なんて言葉じゃ足りない。
圧倒的・・・!
爆安っ・・・!
外に出ると、
雨は一層強さを増して、叩き付けるように落ちていた。
私はまた駐車場まで走る。
帰り際、ふと見たカウンターの向こう側。
一生懸命にうどんを拵える店主の真剣な横顔が印象的だった。
◆ うどん ふた葉(高知市旭町2丁目)
営業時間/11時~15時
定休日/確認するの忘れとった 火曜日のようです!
営業形態/一般店(水と天ぷら類はセルフ)
駐車場/3台(駐車場の場所はココっ!)
(冷やしかけうどん300円、かけうどん300円など、天ぷら類一皿80円、大盛100円増)
『ふた葉』の場所はココっ・・・!